第15章 晩酌④
「ま、またまたぁー、みんながいる前でそんな事できるわけ…」
なるほど?厨番達の前では手は出せぬと思っているのか?
「ふっ、俺を誰だと思っておる?」
甘いな。
「へっ?」
「おい貴様ら、今すぐここから出ていけ」
俺の命に従わぬ者は、この城で貴様以外おらん。
「ははっ!」
「なっ!」
まるで陸に上げられた魚の様に伽耶は口をぱくぱくさせる。
「しばらくは厨に人を近づけるな」
「はっ、かしこまりました」
「うそっ!みんな待って、置いていかないでー」
最後の一人が厨から出て行き、伽耶は情けない声を出した。
「これで二人きりだな」
顔を真っ赤にさせた伽耶を作業台の上に倒して奴の反応を楽しんでいると、上杉が国境付近の支城を攻めたと秀吉が伝えに来た。
秀吉が去った後、俺は伽耶にも軍議に参加する事を命じた。
「軍議には貴様も参加せよ」
「ぐんぎ?」
その言葉自体を知らないと言う顔。
「戦に向けての会議だ」
意味を説明してやると、
「戦っ!誰かと戦うって事ですか?」
奴の表情は一変した。
「そうだ。詳しくは軍議で話す。一緒に来い」
「っ、はい…」
そして俺は、伽耶を戦に連れていく事をこの時決めた。
……
…………
「今思えば、無謀な事をした」
いくら手放したくなかったとは言え、伽耶を戦で気の昂った男どもの中に置くなど、今となっては考えられん。
眠る伽耶の頭を撫で、あの戦での日々を振り返る。
「だが、あの時貴様を連れて行ったからこそ、俺はある覚悟を決めなければならないと言う思いにもなった…」
あの支城を、上杉の包囲から守り抜いた夜に…
…………
……
「怪我…してるんですか?」
落馬した伽耶を敵陣から助け上げた際に、敵の刀が僅かに腕を掠っていて、それを伽耶に気付かれた。
「何のことだ?怪我などしておらん」
騒ぐほどの傷ではないため紐で縛り止血を施していた事を、伽耶に言われる今の今まで忘れていた。