第15章 晩酌④
花火から一夜明けた朝、朝餉へと広間へ行けば伽耶の姿がない。
「本当に分かりやすい奴だ」
昨夜の誘い同様に今朝も逃げたのだと分かり、俺はそのまま厨へと向かった。
手に入れると決めたからには手段は選ばぬ。
案の定、伽耶は厨の隅で小さくなって朝餉を食べている。
憎らしくも愛らしくもあるその姿を俺は暫く眺める。
厨の者達と楽しそうに話す伽耶は終始笑顔だ。
(あれ位の笑顔を日々俺にも見せれば良いものを…)
常に困り顔を向けられる俺としては段々と面白くなくなり、気付かれぬよう背後から奴に近づいた。
「…でも、ずっと逃げるわけにもいかないよね…」
朝餉を食べながらこぼした奴の独り言に思わず苦笑する。
「そうだな。逃げるなど無駄だ」
伽耶がどんな反応を示すのかを想像しながら、俺は声をかけた。
「そうですよね。私も分かって………へっ!?」
思った通りの反応と声…
本当に飽きない奴だ。
「のっ、信長様っ!?」
慌てて振り返るその顔に早くも口づけたくなるが、
「これで俺から逃げたつもりか?」
獲物は逃さぬ様、じっくりと追い詰めねば…
焦る伽耶の顔を見下ろしながら奴の前に手をつき顔を近づけた。
「にっ、逃げるなんてとんでもない、今日は忙しくてここで朝餉を…」
言い訳をしながら伽耶は椅子から立ち上がり一歩後ずさった。
「そうか。ならば俺もここで朝餉を食べる事にする」
「へっ?なっ、何でっ!?」
「無論、貴様を食すためだ」
奴の細い腰に難なく手を回して引き寄せた。
「しょっ、しょっ、食すっ!?何っ?どう言う意味ですかっ?」
目を見開き追い詰められた伽耶をもっと追い詰めてやりたくなる。
「言葉通りの意味だ。貴様には直接体に言い聞かせた方が早そうだからな」
言葉通りに、無理矢理にでも俺のものにして縛り付けてやりたい。