第14章 かくれんぼ
「あの、一つ聞きたいことがあって…」
「何だ?先ほどの続きか?」
信長様は閉じていた目を開けると、ニヤリと私を見た。
「いえ、…私が未来へ帰ろうとしてお別れを言った時、確か信長様は未来へ戻っても信長様の気持ちを示すっておっしゃったと思うんですけど、それはどうやってなさるつもりだったのかなって…」
あの永遠の別れの時の中で、甘く切なく響いた信長様の言葉…
「ああ…その事か」
信長様は体を起こして棚から懐剣を取り出した。
「これだ」
渡された懐剣は、身を守る為にと私に贈ってくれた物。
「これが…?」
「中を見てみよ」
「?……」
言われるままに剣を鞘から抜いた。
剣を抜いたのは頂いた日から二度目だ。恐ろしいほど研ぎ澄まされた短剣はゾクリと背筋を寒くさせる。
恐る恐る刃を見ると、
「……あ!」
刀の刃先とは反対の棟の方に何か文字が彫ってある。
「………っ、これ…!」
恐ろしくて刃に触れた事はなかったけど、この刻まれた文字は指でなぞらずにはいられない。
多分、他の刃物で彫ったであろうその文字は、
〔愛する伽耶へ〕
と書いてある。
「……っ、これ、信長様が?」
「中々上手く彫れておるだろう?」
ニッといつものように笑う顔は少し照れている様に見える。
「これを…後世まで残して下さるつもりだったんですか?」
「ああ、貴様に分かる物で朽ちない物と言えば、玉鋼を使ったこの懐剣が一番適しておったからな」
「私のために……っ、ありがとうございます」
私の選択は間違ってない。本当に、帰らなくて良かった。
これを未来の安土ではなく、ここで、しかも信長様と一緒に見られて良かった。
信長様の気持ちが彫られた文字をもう一度指でなぞって、その気持ちに触れた。指先から幸せが流れ込んで来るみたいに心が温まって行く。
「指を切る前にしまえ」
信長様の手がゆっくりと私の手から懐剣を取り鞘へ収め、
「貴様に渡しておく。俺の気持ちはいつでも貴様と共にある」
そして剣を私の手に握らせた。