第3章 賭けの始まり
「………っ、全然分かりません。気づけば当たり前に身の回りにあった物なので、深く考えたことがないと言うか…」
なんだか私、未来の人間なのに何も知らなくて情けない…
「なる程…考えなくても良いほどに貴様のいた時代と言うのはこのような物で溢れ潤っていると言うことだな…」
信長様は私の知識不足を呆れる事はなく、ただスマホを興味深そうに眺めては時折手を顎に当てて何かを考えているようだった。
(好奇心旺盛なんだな…)
こんな所も大地と重ねて見てしまう。
「試しに誰かと話してみたい。どう操作する?」
ズイッと私にスマホを向けてくるけど…
「この時代には電波が届いていないので通話する事はできません。それに、そのスマホ自体が電気というもので動いていて、それももうすぐ無くなるのでただの鉄の塊となります」
「電波?電気?初めて聞く言葉だな。それの意味は分かるか?」
「それは………ごめんなさい。その意味もよく理解してなくて…」
自分でも驚くほどに無知だ。特に理系は大の苦手で、高校の文理選択では迷わず文系に進んだ位だし…
「そうか」
信長様はそんな私に特になんの反応も示さずスマホの画面を押したりスワイプしたりして画面が変わる様を食い入るように見ている。
(凄いな、スワイプとかタップとかこの時代にはないだろうに、もう当たり前にしてる)
「この、あらゆる場面に出てくる”大地”とは人の名前か?」
「へっ?」
気を抜いていたら、思いがけない質問が飛んで来た。
「あ…はい。人の名前です」
「ふっ、急に声色が変わったな。貴様の男か?」
(すっ、鋭いっ!)
「………っはい、元カレです」
隠しても仕方がないと思い白状した。
「元カレとは何だ?」
「え?あ…と、元彼氏の略で、なんていうか、恋人だった人です」
「ほぅ、貴様の時代では恋仲の相手を”かれし”と言うのか」
「あ、いえ、男性には彼氏で、女性の場合は彼女と言います」
「なる程…貴様はこの大地の彼女だった訳だな」
「はい。そうです」
“だった”と言う過去形に胸がズキッと来る。もう半年も経つと言うのに…