第14章 かくれんぼ
「は?伽耶がいなくなった?」
部屋で残務処理に追われていると、女中二人が伽耶の失踪を伝えに飛んで来た。
「は、はい」
「どう言う事だ、詳しく話せっ!」
「ひっ、それは…」
女中達は震え慄きながら伽耶がいなくなるまでの経過を説明した。
「そう言うことか…」
いなくなったなどと言われ攫われたのかと思ったが、話からしていなくなったのは伽耶自身の行動と分かり、ふぅっと安堵の息が漏れた。
「申し訳ございません。ただ私たちには伽耶様がお逃げになられた理由が全く分からなくて…」
分からんであろうな…、俺とてまだ奴の行動を全て読むことはできん。それどころか奴は時に俺の予想の斜め上を行く。
俺から咎めを受けるであろうと震える女中達がいささか気の毒に思えるが、こやつらも余計なことを…
朝餉の席での揶揄いに対して、伽耶が圧を感じていた事は分かっていた。
「案ずるな貴様らには何の咎もない。ただ今後伽耶から何かを望まぬかぎりは構うな」
「は、はいっ」
「伽耶の事は俺に任せろ。くれぐれも騒ぎ立てるな」
「畏まりました」
女中達が部屋から出て行き俺は文机から立ち上がった。
「ふっ、また逃げたか…つくづく俺を飽きさせん、面倒臭い女だ」
手管はないと言っておったが、男を焦らす手管はあると見える。
「いいだろう、狩りは得意だ。俺を焦らした事、たっぷり後悔させてやる」
城内のカエル一匹を探し出すなど造作もない事。
奴の事だ、あまりこの天主から遠くへは行っていない筈。
(探し出したらどう仕置きしてやろう…?)
考えるだけで愉快な気持ちになり天主の階段を降りる。
「ん?」
武器庫の前の廊下が一瞬きらりと光った。
(何だ?)
近寄って見れば水滴か落ちていて、それが月明かりで光ったらしい。
だが、何故こんな所に水滴が…?
今日は一日を通して天気も良く夕立などもない。ましてや女中共が掃除の際に水をこぼして拭き忘れたとも考えにくい…
目の前には使う事のない武器庫。
そして奴は確か、湯浴みの後に逃げ出した。
「ふっ、つまらんな、もうしまいか?」
ここに水滴が落ちている理由は一つしかない。
ガタッ、ガタタッ!
俺は武器庫の扉を思いっきり開け放った。