第13章 中秋の名月
「はぁ、はぁ、信長様…?」
呼吸は乱れに乱れてうまく話せない。
「ふっ、…ククッ…」
私の顔を見るなり、信長様は笑い出した。
と言うよりは、堪えていた笑いが漏れたと言った方が正しいかもしれない。
「?信長様…?」
浅い呼吸をしながら、私は信長様を見つめる。
「もっと虐めてやろうと思ったが、その蕩けた顔には勝てん」
「え?」
「伽耶よく戻った」
信長様はそう言って優しく笑うと、私を抱き上げたまま抱きしめた。
「……っ、」
急な優しさに私の両目からはもちろん涙が溢れだす。
「よ、良かった〜。もう嫌われたのかと思って…っく、どうしてこんな…ひどいです。うぅ…」
「ひどいのは貴様だ。あれ程の別れ方をしたのに余りにも普通に戻って来た時には驚いた。しかも今にも抱きつきそうな勢いで……、顕如の事もあり家臣の手前あそこで貴様を抱き潰すわけにもいかなかったからな…それにしても…ククッ…」
「そう…だったんですね」
確かに、あの場面で今みたいなキスをされたらヒィーーってなるところだった。
「でもそれならそうだと一言言ってくれれば…」
凍えそうな思いで信長様を待たなくてもよかったのに…
「これ位の仕返しは許せ。昨夜の貴様の仕打ちにはさすがの俺も堪えた。痛み分けだ」
目を細め辛そうに伝えて来たその言葉に昨夜の自分の行動を思い出す。
昨夜は、一夜の思い出でもいいから抱いてほしいと、信長様の気持ちを考えずに自分の気持ちを優先させてしまった。それが信長様を傷つけたとも知らず…
「昨夜はごめんなさい。ううん、今までずっとごめんなさい」
信長様の心ごと抱きしめるように、首に腕を回して抱きついた。
信長様は何も言わずに私の頭に口づけを落とすと私を抱き抱えたまま部屋へと入り、そして寝所へと向かった。
(…っ、これは、もうそう言うことだよね?)
でもたった今聞いた”抱き潰す”と言う言葉に若干気持ちは怯んでしまい、せっかく整いかけた呼吸と鼓動は急に忙しくなる。
信長様は褥の上に私を横たわらせそのまま覆いかぶさった。
「……っ、待って信長様、せめて少し話を…」
(心の準備と言うものが…)
「する必要などない。貴様は戻って来た。それは俺に抱かれてもいいと言うことだ。違うか?」
熱を孕んだ目が私を射抜く。