第13章 中秋の名月
「先程、牢屋に入れたばかりの顕如が忽然と姿を消したので、その捜査と討伐に向かう準備をしている所です」
「逃げ出した…?」
やっぱり間に合わなかったんだ…
でも、あの短時間で顕如を連れ出し逃げたなんて、本当に蘭丸君ってすごいんだ..
「信長様はっ?」
(無事なの?)
「信長様は討伐に向け天主でご準備をなさっているはずです」
(良かった、無事だ!)
「分かった。ありがとう」
無事だと分かっただけで腰から力が一瞬抜けたけど、まだ砕けるわけにはいかない。
「伽耶様、戻って来て下さったのですね」
「うん。やっと自分の気持ちに気づいたの。私、これからもここにいていいかな?」
「もちろんです。これからも宜しくお願いしますね」
討伐の準備で忙しいにも関わらず、三成君は優しい言葉とエンジェルスマイルをくれた。
「ありがとう。こちらこそ、これから宜しくお願いします」
じ〜〜んとしてまた泣けて来たけど今は信長様に会いたい。
「私行かなくちゃ」
無事でいてくれただけでいい。
天主にいる信長様だけを目指して私はとにかく走った。
会ったら何を話そう。戻って来たのかって驚かれるよね?もしかしたらそれ以上に喜んで抱きしめてくれるかも…?頭の中は途端に邪な気持ちが溢れて来る。
「ばかばかっ!今はそれ所じゃないでしょ!」
蘭丸君の事だって、なんて伝えるかも決めてないのに…
……でも、まず会ったら信長様に飛びついてもいいかな…?
あなたが好きだって、ここにいさせて欲しいって伝えても…
「信長様っ!」
気持ちが昂りすぎて、声もかけずに勢いよく襖を開けた。
「信長様っ、………っ、」
思いっきり飛び上がって抱きつきたかったけど、信長様は家臣二人に鎧を着付けてもらっている最中で、完全に出鼻をくじかれた。
しかも、
「何だ、騒々しいと思えば貴様か?」
信長様は喜ぶどころか、ぎろりと睨んで騒々しさを叱って来た。
「あ…え、…あ、はい、ごめんなさい」
何だか…想像していた展開と違うぞ?
「あの、信長様」
「今から脱走した顕如の後を追う。用があるのなら戻ってからにしろ」
「は…い」
あれ…?
何だか…冷たくない…?