第13章 中秋の名月
乗馬は操る人はもちろんの事、乗せてもらっている方もそれなりに汗をかく。速度が上がれば尚更だ。けど今私がかいている汗はそんな爽やかなものではなくて冷や汗…
(蘭丸君が何か事を起こす前になんとしても止めなければ!)
わざわざ私にさよならを言いに来てくれた蘭丸君の優しさは本物だったし、いつだって私に元気をくれたのも本当。
彼のことを深く知らないし、どうしてこうなったかのいきさつなんて分からないけど、きっと心を痛めてる。
そして裏切りを知った信長様もきっと心を痛めてる。
手の汗が止まらない。
「城下町に入ったよ」
佐助君の言葉に頭を上げれば、お別れしたはずの安土城が見えて来た。
城下町に土埃を舞わせながら馬は全力で進む。
「ごめんなさい。通ります。ごめんなさい」
(お願い、間に合って!)
大手門前に着いた。
「伽耶さん俺は行くことができないけど大丈夫?」
「うん、大丈夫。ここまで送ってくれてありがとう」
策も案も何も思い浮かばないし、汗ばんだ手は震えが止まらない。
けど、
「私行くね」
「ああ、気をつけて。これから俺たちは敵同士の地で生きていくことになるけど、俺はいつでも君の味方だ。また会いにくるよ」
「うん、ありがとう。お互い堂々と会える日が来る様に私も頑張るし、この戦国ライフを満喫してみせる」
“ズッ友”の証として私たちは力強く握手をして、佐助君からは多分ウィンク?をもらい、それぞれが生きると決めた場所へと向かった。
「本当に帰って来ちゃった…」
信長様と抱き合って別れを告げてから一日と経っていないのに、とても昔のことの様に思える。
「ああ、こうしちゃいられない!」
感傷に耽っている場合ではない。大手門をくぐり本丸へ急ぐと、中庭では馬や武器の準備がされていた。
(もう何かが起こった…?)
多分間に合わなかったのだと痛む胸を抑えていると、準備で忙しそうな人々の中に三成君を発見した。
「三成君っ!」
「伽耶様っ!?」
驚いた顔の三成君に、(うん分かるよ。驚くよね)と心の中で思ったけど、状況を知りたくて三成君が話し始める前に話しかけた。
「お城が騒がしいみたいだけど何かあったの?」
私がなぜここにいるのかを聞きたかったであろう三成君は、僅かに口をぱくぱくさせた後で、すっと真剣な顔に戻した。