第13章 中秋の名月
「素直じゃない君のために少しだけ後押しさせてもらうと、ジャガイモは多分もうすぐインドネシアからこの日本に入ってくる。そうすれば君の好きなポテトはこの時代でも食べることができる。チキンも、そのジャガイモがあれば片栗粉が作れるから、同時に食べることが可能だ」
あまりにも得意げに言うから思わず吹き出してしまったけど…
「ふふっ、じゃあポテトとチキンはもう我慢しなくても良くなるんだね……っ」
どうしようもなく涙が溢れた。
帰りたいってずっと思ってた。今もその気持ちは変わらない。
でも、
「佐助君、ここに残りたいって思うなんて、私って変かな?」
いつの間にか、この時代にいたいって気持ちの方が大きくなってたんだ。
「奇遇だな。俺もここに残りたいって考えてた」
そんな優しい言葉をくれるから、
「っ、……ふっ、」
ますます涙が止まらなくなった。
人に誠実さや信頼ばかりを求めておいて、私自身が誰のことも信じてなかった。
大地の時もそう。彼を信じる事ができなくて失ったのに、また同じ事をしようとしてた。
あの戦の時だって、佐助君の事も信長様の事も信じきれなくて、結果信長様を傷つけた。
「そうと決まれば、京行きはキャンセルだな」
佐助君は馬を止めて向きを変えた。
「本当にいいの?私のために無理してない?」
「全然、まぁ戻れば確実に謙信様に斬りかかられるから、それをどう防ごうかを考えないとダメだけどね」
「それはちょっと…大変そうだね」
(謙信様…もうサイコパスなイメージしかないな…)
「俺のことは大丈夫。謙信様はあれで中々に話の分かる人だから。それよりも安土に急ごう」
「うん。お願いします」
馬は安土に向かって再び駆け出した。
やっと気づいた。
私は、信長様の事が何より大切で側にいたいってことに。
もう迷わない。
今度は間違えたりしない。
例え信長様が多くの命を奪った鬼だとしても、私の彼への気持ちは変わらない。
(信長様、どうか無事でいて…)
あなたが私を守ってくれたように、今度は私があなたを守る。
「少し馬を飛ばすからしっかり捕まって」
「はい!」
チラッと京の方に顔を向け私は心の中で”さよなら”を言った。
私の三ヶ月にわたる長い旅はようやく終わりを迎えようとしていた。