第13章 中秋の名月
「…っ、どうしよう」
「どうする?伽耶さん、戻ることは出来るけど、それだとワームホールには間に合わなくなる」
「そうだよね…」
それは…私だけじゃなく佐助君にも迷惑をかける事になる。
「大丈夫。京に急ごう」
信長様ならきっと大丈夫。蘭丸君を疑っていたのならきっと気がつくよね…?
馬は京へ向かって走る。
もうすぐで、あんなに帰りたかった未来へ帰ることができる。
できるのに…
「ねぇ佐助君、ポテトって美味しいよね」
「そうだな。あの塩加減が堪らない一品だな」
「そうだよね。私帰ったらまずポテト食べたいな。あとは、チキンでしょ、ピザでしょ、ケーキにカフェにだって行きたい。あ、ラーメンも外せないかな……」
「懐かしいな。俺は四年帰ってないから…大学の研究室の近くのラーメンが安くて美味いんだ」
「わぁ、行ってみたい。最近のラーメンってすごいよね。創作系から出汁にこだわってる系に、野菜マシマシ系まで、お取り寄せも美味しくて…あ、そう言えばワームホールに飲み込まれる前にネットで取り寄せたラーメン、どうなったかな…?あはは…」
ダメだ…食べ物の事を考えて紛らわそうとしても信長様のことが頭から離れない。
「あとは何がしたいかな、えーと、待ってね、今思い出すから…」
蘭丸君はもう安土に着いたのかな…?
信長様は無事かな…?
「…っ、おかしいな、戻ったら食べたい物もやりたい事も行きたい所もいっぱいあったはずなんだけど…」
思い出そうとするたびに浮かんで来るのは信長様の事だけ…
「記憶力悪くなっちゃったかな…まぁ戻れば思い出すよね。きっと未来の方が楽しいに決まってるんだから」
そうだよ、あんなに帰りたかった未来はもうすぐそこなのに!
「………っ、どうして」
どうして信長様の顔しか思い浮かばないの!?
「伽耶さん、君は…本当は戻りたくないと思ってる?」
「え?」
その質問にドキッとして顔を上げれば、目頭に溜まった涙がこぼれ落ちた。
「図星だな。なのに戻る理由を探してる?」
泣き顔で確信したのか、佐助君は嬉しそうに笑った。
「ちがっ、そんな事…」
「君は案外素直じゃないんだな」
クスッと笑われて、一気に顔が熱くなった。
「っ、それは、自覚してます」
私に足りないものの一つだから…