第13章 中秋の名月
「そう。とても有名で、とても尊敬できる武将だ。ただ、君が身を寄せていた織田信長様には人並みならぬ恨みがあって、信長様を討ち取るために、謙信様初め様々な者と日々会合をしている」
「う…ん」
集中して聞かないと分からなくなりそうな内容に、私は必死で頭を回転かせた。
「その信玄様が会っていた人物の中に、さっき捕まった顕如もいる」
「え?」
「その日は謙信様も同席していた為、俺も忍として影からその会合を監視していた。その時に、忍として顕如の側に付いていたのがさっきの森蘭丸だった」
「ちょっ、ちょっと待って!」
そんなのおかしい…だってそれって、蘭丸君がまるで顕如の手先みたいに聞こえる……!
「見間違いとかじゃなくて、本当に蘭丸君だった?」
「ああ、間違いない」
「でも、顕如の味方じゃなくて、信長様から命令されて味方のふりしてたって可能性も考えられない…?」
「残念だがその可能性は極めて低い。信玄様の抱える隠密集団”三ツ者”が信長様側の忍を見逃すはずがない。彼は確かに顕如の忍だ。織田軍側の人間じゃない」
きっぱりと言い切る佐助君に、初めて蘭丸君に会った日のことを思い出した。
本能寺の変以降姿を消していた蘭丸君が急にお城に戻ってきて、その後城下で再び会った彼は確か私にこう聞いた。
『所で伽耶様、俺たち前にどこかで会ったことない?』
あの時は冗談でナンパっぽく話しかけてくれたんだと思ったけど、あれはもしかして、本能寺で私が蘭丸君を見た可能性がないかを探ったって事?
本能寺で私が見た、信長様を殺そうとした男性は蘭丸君だったって事…!?
嫌だ…、合わさらなくていい負のピースがどんどん繋がっていく。
あの日、戦に向かう道中で、信長様は光秀さんを疑っていたわけじゃない。
多分、蘭丸くんが犯人じゃないかと分かってだんだ…!
じゃあさっきの慌てぶりも、織田軍を心配してのことじゃなくて、顕如の身を案じて…?
「佐助君!」
「ああ、多分、森蘭丸は顕如を助けに戻ったと考えて間違いない」
「……っ、また信長様の命を狙うって事?」
本能寺の時のような事をまた起こすつもり…!?