第13章 中秋の名月
「あ、今からお城に戻るの?」
京から戻る途中って事はそうだよね?
「うん、そうだよ?」
「あ、じゃあ大変かも」
「えー、何で?」
「何かね、信長様を本能寺で襲った犯人が捕まってお城に連行されてくるって騒いでたから」
きっと帰ったら大変だよって、いつもの蘭丸君の調子に合わせて言ったつもりだったのに、
「………えっ?伽耶様、今なんて?」
うるるんとしていた蘭丸君の顔が一気に引き締まり、可愛らしい仕草が瞬殺された。
「あ、うん、顕如ってお坊さんが捕まったって…」
「っ、それはいつの話?」
「今朝だよ。私がお城を出る直前に潜伏先が分かったって言って……って、大丈夫?」
何だか、みるみる内に顔色も悪くなってく蘭丸君が心配になった。
「っ…大丈夫」
全然大丈夫そうに見えない蘭丸君は、額の汗を手の甲で拭った。
本当に大丈夫?と手を伸ばしかけた時、
「あー、本能寺の犯人が捕まったって聞いてちょっと怖くなっちゃったけどもう大丈夫」
ニコッと、いつもの蘭丸君に戻った。
「そうだよね、怖かったよね。ごめんね」
ただでさえ、信長時に仕事押し付けられて戻ったばかりなのにこんな事件…配慮が足りなかったと反省した。
「ううん、でも俺もう行かなくちゃ。伽耶様には俺の命を助けてもらったから、どうしてもそのお礼が言いたかったんだ」
「わざわざありがとう。これらかも生命を大切に元気でいてね」
「うん。でも俺ももう信長様の元を離れるから、もし伽耶様が安土に戻って来ても会うことはないかも」
「え、そうなの…?」
そんな急に?それとも前から決まってたのかな?
そんな事、誰も言ってなかったけど…
「伽耶様本当にありがとう。伽耶様もお元気でね」
「うん、ありがとう。蘭丸君も元気でね」
少し余裕のない顔で蘭丸君は馬を走らせ去って行った。
「佐助君お待たせ。ありがとう」
私たちも再び京を目指して馬を進めた。
道中、お互いの戦国ライフについて話をしたけど、あるところまで話すとお互い思い出が深すぎるのか段々と無口になって…、また新しい話題を振るみたいになり、いつしか無口になっていった。