第13章 中秋の名月
「でも、犯人が捕まって良かったし、何より光秀さんじゃなくて良かった。やっぱりこの時代は私たちの知ってる歴史とは違うみたいだね」
「そうだな。俺達がそれぞれの武将を助けた事で歴史が変わったのか、それともこれが真実なのかは、帰ってみないと分からないな」
「うん、そうだね」
帰ったら、すぐに安土に行けと言われたけど…安土城は確か現代では残ってないはず。
自分で帰る事を望んだのに、安土城の跡地に行くのは勇気がいりそうだ。だってそこに行っても、もう信長様に会うことはできないのだから…
後ろを見れば、安土城はもうとっくに見えない。
こんな思いをこれからずっとしていくのだと思うと、やはり胸が締め付けられた。
「伽耶様ーーーっ」
見えない安土城を目に浮かべ切なくなっていると、誰かが私の名前を呼びながら馬で駆けてきた。
(誰?)
「君の知り合いみたいだな」
佐助くんは馬を止めて、その人が追い付くのを待った。
「伽耶様ー」
(あ、蘭丸君?)
視線がとらえたのは、馬でこっちへと向かってくる蘭丸君の姿。
「伽耶様、良かった間に合った」
馬を飛ばして来てくれたのが分かるほど、蘭丸君の額には汗が滲んで見えた。
「わざわざ追いかけて来てくれたの?でも今朝はお城にいなかったよね?」
今もお城から逆方向から来たし..
「うん、俺勝手に京から帰っちゃった信長様の残務処理を仰せつかってたから、今やっと戻って来れたんだ」
「それは…大変だったね」
なんだかとても罪悪感が…
「そんな事より、伽耶様本当に帰っちゃうの?」
うるんと、大きく潤んだ目が私を見た。
女の私より全然可愛い仕草にキュンとしてしまう。
「うん、みんなに会えなくなるのはとても寂しいけど、私の故郷の人も待ってくれてるから…。仕事もあるし帰らないとね」
「そうなんだ。俺のこと忘れないでね。俺も伽耶様の事絶対に忘れないよ」
「うん、私も忘れない。元気でね。色々とありがとう」
伸ばされた手を握り返すと、ぶんぶんとその手を振って気持ちを伝えてくれた。