第13章 中秋の名月
「信長様っ!」
どうしていきなりっ!?
「伽耶さん、大丈夫」
佐助君は焦る私を手で制して信長様をそのまま真っ直ぐに見返している。
ハラハラするのに、口を出しては行けない空気感が二人の間に漂う。
「佐助、伽耶を必ずや無事に目的地まで送ると誓え」
(それを言うために刀を?)
気に入らないから抜いたんじゃない。私の事を思っての行動に胸が詰まった。
「はい、必ず!傷一つつける事なく彼女を送り届けます」
佐助君も分かりずらいけど口元を緩めて返答をした。
「ふっ、いい目だ。よかろう、貴様に伽耶を託す」
信長様はカラッと笑い、刀を収めた。
「佐助、少し話せるか?」
「もちろんです」
信長様は私に「ここで待て」と言って、佐助君と少し離れた場所へと連れて行った。
何を話してるんだろう?
気にはなるけど、男同士の会話は全然私の耳には届かなかった。
「伽耶さんお待たせ。行こうか」
「うん」
本当に別れの時が来てしまった。
信長様を見れば鼓動が大きく跳ね、喉も小さく鳴った。
佐助君が先に馬に乗り手を差し伸べる。
「お願いします」
その手を取ろうと手を伸ばした時、
「伽耶」
「はい」
信長様に声をかけられ、私は手を引っ込めて信長様に振り返った。
「達者で暮らせ」
「…っ、信長様もお元気で」
これだけで目頭は熱くなり、唇をキュッと結んで涙を絶えると、肩を力強く引かれ掻き抱かれた。
「そんな顔をするな、決心が鈍る」
信長様の本音が漏れ、余計に涙を堪えることができなくなった。
「俺の貴様への気持ちは生涯変わらん。それを証明する物を未来へ残してやる」
「え?」
「500年先の未来へ戻ったら、それを安土に行き確認せよ。分かったな」
「……っ」
私を…そこまで思ってくれるの?
こんな、自分勝手な感情を優先する私の事を…?
「困った顔をするな。最後くらい笑え」
「……っ、はい」
言われた通りに、今できる精一杯の笑顔を信長様にして見せた。