第3章 賭けの始まり
折れてくれるのはいつだって大地からだった。それを私は当たり前に受け取って…こんなわがままな私に大地の心は少しずつ離れて行ってたんだって今なら分かる。
「ねぇ大地、私…戦国時代に飛ばされちゃったよ。……早く…私を助けに来てよ………っ」
口に出しても叶わない言葉を呟いてみる。
「…って、もう彼氏じゃないのにね」
それどころか、今では人様の旦那様でパパだ。
そんな現実に、ふっ、と乾いた笑いが出た。
「伽耶様」
感傷に浸っていると、襖の外から私を呼ぶ声が。
「は、はいっ!」
「信長様がお呼びです」
「あ、はい。……えっ、信長様が!?」
「はい。伽耶様の荷物を持って来るようにと仰せです」
「荷物…」
手に持つスマホに視線を落としてこれらの事だと分かり、バッグにスマホを入れて立ち上がる。
(着物姿に見事に合わないなこのバッグ)
アパレルメーカーに勤めるデザイナーとしては失格なコーデに苦笑しながら襖を開け部屋を出た。
「お待たせしました」
女中さん…と言うのかな?迎えに来てくれた女性に連れられて、さっき秀吉さんに説明してもらった天主に続く長い廊下を歩く。
(普通は天主には住まないって秀吉さんも言ってたから、そんな所に住んでるなんて史実通りに変わった人なんだろうな…)
まだほんの少ししか会っていないけど、信長様はどことなく雰囲気が大地に似ている。どこか冷めていて自信のあるあの表情とか……、きっと恐ろしい人なんだろうけど、ついつい目で追ってしまう気になる存在だ。
「信長様、伽耶様を連れて参りました」
長い廊下を進み階段を登った後、ある部屋の襖の前で女中さんは声をかけた。
「入れ」
低い声が襖越しに聞こえてくる。
不思議と胸がトクッと鳴り背筋がピンと伸びた。
「さ、伽耶様どうぞ」
女中さんは襖を開けて私に入るように促した。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言って入ると女中さんは手早く襖を閉め去って行く音が聞こえた。
(えっ、2人っきり!?)
てっきり女中さんも入ってくると思っていたから、急に2人きりにされて緊張感がどっと押し寄せて来た。