第13章 中秋の名月
次の朝目覚めれば、信長様の腕の中だった。
暖かくて幸せな空間。
いつから起きていたのか、信長様は私の髪をぐるぐると指に巻きつけ遊んでいた。
「おはようございます」
(あのまま寝てしまったんだ)
「よく眠れたようだな」
遊ぶ手を止めて、私の頬をひと撫でしてくれる。
胸は高鳴るけど、信長様の晴れやかな顔にはもう迷いも苛立ちも見られない。
私たちは、今日本当にお別れをするんだ。
「京までの道のりは長い。朝餉はしっかりと食べて行け」
「はい。ありがとうございます。支度があるので、一度部屋へ戻ります」
「分かった」
「また広間で」と言って、私は幸せの空間から起き上がり天主を後にした。
朝餉の広間でいつもの様に、でも最後となる朝餉を済ませ、そして武将たちに別れを告げ、私は来た時の荷物を持って信長様と大手門に向かった。(お洋服は本能寺に着いてから着替えるためまだ着物)
ただ最後に大きなイベントが残っている。
佐助君と信長様のご対面。
「あの、信長様」
「何だ?」
「今から会う佐助君に、絶対斬りかからないで下さいね?」
ほんと頼みます!という意味を込め、手を合わせて信長様にお願いをした。
「前にも言ったが約束はできん。気に入らなければ斬る」
「え〜っ!」
もう心配しかない。
城内の広い庭を抜け幾つもの城門をくぐると、いよいよ待ち合わせ場所である大手門が見えて来た。
二人のご対面が迫ると共にドクンドクンと、心臓も大きく脈打つ。
(神様お願いします。どうかうまくいきます様に)
またもや神頼みを心の中でしていると、
「信長様っ!」
お城の方から、秀吉さんが猛スピードでこっちへ向かってくる。
「秀吉さんだ。どうしたんでしょうね?」
私たちは秀吉さんの方へ振り返り歩みを止めた。
「信長様、お引き止めして申し訳ありません。伽耶も、こんな時に悪いな」
「ううん、大丈夫」
「如何した?」
信長様は、話の先を促す。
「それが、たった今、信長様を本能寺で襲った首謀者を捕らえたと…」
「えっ…?」
驚きの声を上げたのは私。
「して、それは誰だ?」
信長様は動揺するでもなく静かに問いかけた。