第13章 中秋の名月
「晩酌に来い」
お城に着くと信長様はそう言って城の中へ入って行った。
夕餉と湯浴みを済ませ、信長様に渡したい物一式を手に天主へと行った。
「伽耶です」
「入れ」
このやり取りも今夜が最後。
そう思うだけで鼻先がツンとする。
いつも通り廻縁に行けば、既にお酒を飲み外を眺める信長様がいる。
この光景をいつまでも見ていたいと思う資格は私にはない。
「信長様、これを…」
お返しする品々を信長様の前に置いた。
置かれた物を見た信長様は顔をしかめ、そしてグイッとお酒を飲み干した。
「…何のつもりだ?」
顔は不機嫌を隠さない。
「明日の朝ここを発ちますので、色々とお借りしていたものを今お返しします。ありがとうございました」
幼い頃から様々な布に触れてきたから分かる。信長様が用意して下さった着物や装飾品たちはどれも全て上質の物だった。
「それが貴様の答えか?」
鋭い目が私を見据える。
「………はい」
目を逸らせば飲まれてしまいそうで、私は視線を合わせたまま頷いた。
「……そうか」
信長様はあっさりとその品物を自分の方へ引き寄せ端へ置いた。
(あれ?)
その表情から、もっと色々と文句をつけられると思ったのに、来ると思っていた言葉攻撃がなく肩透かしを食らいながらも、私は次に信長様にお渡しするものを信長様の前に置いた。
「あと、これを信長様に」
こだわりの強い信長様に似合って、尚且つ質の良い生地は中々見つからなかったけど、探して探してやっと見つけた反物で仕立てた信長様のお着物。
「貴様が縫ったのか?」
「はい。今までの感謝の気持ちをたくさん込めて仕立てました。貰って頂けたら嬉しいです」
「感謝の気持ちか…そんなものはいらんが、これは貰っておく」
素気なくそう言うと、着物を手に取ることもせずまた横へと追いやった。