第13章 中秋の名月
「このまま、会えないままお別れなのかな…」
こんな事を考えること自体がもう自分勝手な事だって分かってる。
でも、
「会いたい」
ちゃんと会って、さようならとありがとうを伝えたいのに…
秀吉さんにいつ戻るかと聞いても、「朝廷次第で俺にも分からない」と言われ続け…
そのまま帰る前日を迎えてしまった。
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最後の挨拶は、お城の中の人達へ。
それが終われば身の回りの物を整理した。
未来へ持ち帰るのは、未来から持って来た物だけと決めていたから、信長様に頂いた物以外の物は針子仲間や女中さん達に貰ってもらった。
手元に残ったのは、信長様から頂いた着物や髪留めなどの装飾品。そして、懐剣。
「ちゃんと手渡しで返したかったけど、無理かな…?」
信長様が京を発ったと言う知らせはまだ届いていない。
(逆にこのまま京で会えたりしないかな?)
確か、京都御所と本能寺はそんなに離れてはいなかったはず。
「うん、佐助君にお願いしてそうしよう!」
なんだ、考えたら簡単な事だった。
ちゃんとお別れが言えると分かった私は、最後の挨拶先であるお寺へと向かった。
「お姉ちゃん!」
お寺へ行くと子どもたちが元気よく迎えてくれた。
「こんにちは。お芋蒸してきたから食べよ!みんなを呼んできて」
「はーい」
信長様の計らいで、当初いた子どもたちの何人かは既に新しい生活をスタートさせてもうここにはいない。でも、生活の苦しい子は後を立たず、一人が旅立ってもまた新たな子がここを訪れる。戦がなくなるまではきっとこれを繰り返すのだろう。
「お姉ちゃん、お芋食べたらあそぼ」
「うん、いいよ」
今まで遊んだ遊び全てを日が暮れるギリギリまで子どもたちと遊んで過ごした。
「伽耶さん、今夜はお月見会をしようと子どもたちと月見団子を作りました。もしお時間があれば一緒にどうですか?」
「良心さん…」
心がジーンとする。
良心さんと子どもたちには今日でお別れだと事前に伝えてあったから、一日早いお月見会を催してくれたんだろう。
「ありがとうございます。是非一緒に……っぷ!」
いきなり背後から口を塞がれた。
(何?誰っ!?)
「悪いが、此奴は連れて行く」
「ふがっ!ふががががっ!?」(のっ!信長様っ!?)