第12章 戦
広間に残されたのは私たちだけ。
(信長様が怪我?)
下座から上座に座る信長様を見ても、いつものオレ様な感じで怪我をしているようには見えないけど…
立ち上がって信長様の元へ。
「貴様も飲むか?」
お酒を飲むかと聞かれたけど、
「いえ…」
そんな場合じゃない。
「如何した?」
「怪我…してるんですか?」
あの時、私を助けに戻ったから?
「何のことだ?怪我などしておらん」
しれっと、その口は怪我をしてないと答える。
でも、私の知る限り、家康がなんの根拠もなしにそんな事を言うはずがないっ!
「嘘っ!だって家康が、信長様の手当てをしろって…」
私が気にすると思って隠してるの?
「家康の奴、余計な事を…」
バツの悪そうな顔…やっぱり怪我してるんだ!
「見せて下さい。どこを怪我したんですかっ!」
隠そうとする信長様の着物に手を掛け傷口を探した。
「おいっ………っ!」
左腕を掴んだ途端、小さな呻き声が信長様から漏れた。
(腕っ?)
回り込んで見れば、
「…っ」
着物に血が滲んでいる。
「失礼します。捲りますよ」
袖口を捲り上げれば、上腕二頭筋の辺りに一本の切り傷があり、その少し上を紐で固く結んで止血がされていた。
こっちの腕は私が落馬した時に担ぎ上げてくれた方の腕。
私に斬りかかって来た敵方の刀に斬られたんだ。
しかもこんな応急処置をして隠してたなんて…
「っ、ごめんなさい。私のせいでこんな…」
自分の事ばかりで…
「貴様のせいではない。守ると言いながら貴様を危険に晒した俺に責任はある」
「でもわた……わっぷ!」
話してる途中なのに急に引き寄せられ抱きしめられた。
「信長様っ?」
しかも、怪我してる腕で抱き締めてない?
「信長様傷が…離して下さい」
ぱっと見だけど、結構深く斬られてた。こんなことしてたら傷が開いちゃう!
「こんな傷はたいしたことない、貴様こそ、怪我をしておらんだろうな?」
「こんな怪我してるのに私の心配なんて…」
「答えよっ!」
「っ、…私は、お尻を強打したくらいでどこも怪我はしてません」
ダメだ、胸板が直で頬に当たって緊張する。