第12章 戦
「おのれ、信長っ!俺と戦わずして逃げるつもりかっ!」
悪魔のような信長様に魅入られていると、挑発とも取れる言葉が聞こえてきた。
「ふっ、謙信か…?」
そう呟く口の端は更に持ち上がる。
(謙信って、上杉謙信?敵の大将?)
声のした方に顔を向けると、金髪の武士がその綺麗な顔を歪ませこっちを睨んでいた。
(あれが、上杉謙信?)
遠くからでも分かる綺麗な顔立ちに目を奪われていると、その隣に立つ眼鏡男子に既視感が…
「………えっ!?あれっ?」
(佐助君っ!?)
なんでこんな所に!?
「待って信長様、まっ、……っきゃあっ!」
「伽耶っ!」
しっかり掴まっていろと言われたのに、佐助君を見つけた驚きで咄嗟に手を離し馬から振り落とされた。
「…っ、イタ、たた…」
お尻から落ちて助かった。
しかしながら強打で四つに割れてしまいそうな痛みのお尻をさすりながら立ち上がる。
ハッ!
(しまった !)
落ちたのは敵陣の真っ只中。
落馬した割に軽傷で済んだけど、命はとてつもなく危険な状況に晒された。
「……女だ」
「信長様の女か?」
敵の兵士達が私を取り囲む。
「殺せっ!」
「信長の代わりに殺せっ!」
「この女の首だけでも取れっ!」
「ひっ……!」
生まれて初めて感じるその殺気に、声にならない声が漏れた。
(う、動けない)
ギラついたたくさんの目に射すくめられ動けずにいると、その目の人達が一斉に刀を振り上げた。
(………っ!)
死を覚悟して目を瞑ったその時、
「伽耶っ!」
けたたましい馬の蹄の音と共に逞しい腕が私をお腹から持ち上げた。
「!」
ドサッと、身体は元通りに信長様の馬の上。
「信長様っ!」
「貴様は、馬上でもじっとしておらんのか」
「ご、ごめんなさいっ!」
(助かった)
恐怖からリリースされ、目頭が熱くなった。
「……っ、ありがとうございます」
今度こそちゃんと捕まろう。それに泣きそうなのを見られたくない。
ぎゅっと、信長様に抱きつくように両腕を回した。
「それで良い。しかと俺に抱きついていろ」
信長様はその後も馬を走らせ敵を薙ぎ倒し、宣言通りに城を取り戻した。