第12章 戦
そして三日目の朝、信長様は作戦を大きく変更した。
「一斉攻撃を仕掛ける」
「ははっ!」
これ以上は時間の無駄だと言い、信長様は動ける者全員で一斉攻撃に撃って出る事にした。
「伽耶、貴様は俺と来い」
「え?」
「勝利の瞬間を貴様も見届けよ」
ニッと、頼もしく口角を上げて言っているけど…
「無理無理無理っ!それは本当に無理ですっ!私はここで怪我人の世話を…」
そんな戦場の真ん中になんて怖くて行けないよっ!
「無理ではない。城へ続く一本道を俺と駆け抜け敵を蹴散らすだけだ」
そんなゲームの攻略みたいに言わないでほしい。
「本当に無理です。今でももう失神しそうなのに…」
そんな所に連れて行かれたら一発アウトなんですけど…!
「気を失っても構わん。俺が支える。来いっ!」
「ちょっ、待って信長様っ!」
強引だ。そして力で勝てるわけもない私は担がれる様に連れて行かれ馬に乗せられた。
(ああ神様、短期間で何度もお願い事をしてごめんなさい。でもお願いです。私の命も信長様たちと共にお助け下さい)
早足で駆け抜ける馬の上、私にできる事は神頼みだけ…
「何をブツブツ言っておる?」
意気揚々と馬をかけ敵を薙ぎ倒す信長様は、ビビって馬の上で縮こまる私を覗き込んだ。
「か、神頼みを少々…」
「ふっ、神などに願わず俺に願え」
「信長様に願っても聞いてくれないじゃないですかっ!」
無理やり馬に乗せたの誰よっ!
「言い得て妙だな。このまま城まで押し通る。しかと掴まっていろ」
パシンっと勢い良く手綱をしならせ馬の腹を蹴り上げると、馬は速度を上げて走り出す。
「命の惜しい奴は道を開けろっ!でなければこの信長が斬り捨てるっ!」
片手で馬を操りもう片方の手で敵を薙ぎ倒す。そんな信長様に私は馬から落とされないように必死でしがみつく。
ふと頭を上げれば、口元にうっすらと笑みを浮かべる私の知らない信長様の顔。
安土の民が魔王と呼ぶその人は、確かに今目の前にいる。
それでもこの人はなんて綺麗なんだろう?
悪魔は人を魅了するために綺麗な姿をしていると聞くけど、不敵な笑みを浮かべて鮮血を飛び散らし、敵陣の中を駆け抜ける姿はまさにそのものだ。