第12章 戦
急速に血の気が引くのが自分でも分かったから、信長様の目には顕著に顔色を悪くする私が映っただろう。
「伽耶?」
気遣うように信長様の手が私に伸びてきたけど、
「……っ」
目が合った時、悍ましいものを見る様な目をしていたと思う。そんな私の表情を信長様は読み取った。
「…俺が怖いか?」
そう言って私に触れようとしていた手を止めた。
「っ、違っ、怖いわけじゃ…」
でも、
人を斬ったんですか?
人を殺したんですか?
そんな言葉が頭を掠めるけど、聞けるわけがない。
だってここは戦場。負けるは死を意味し、その反対は言わなくても分かる。
今の今、信長様の無事を祈ったばかりで、それが叶ったとはそう言う事なのに…
「貸せ」
「あ…」
信長様は困惑する私から手拭いを取ると、自分で甲冑の血を拭い出した。
(違う、そんな切ない目をさせたいわけじゃない)
「…っ、私に拭かせてください」
手拭いを拭く信長様の手を止めると、その手がぎゅっと私の手を握った。
「無理はするな」
「大丈夫です。驚きましたけど…本当に驚きましたけど…信長様が怖いわけじゃないんです」
ただ、今ここにある全てが私には初めてで……
でも、
「信長様が無事に戻って来てくれて嬉しかったんです。だから、これ位はさせて下さい」
正直、簡単に受け入れる事はできないし、これが普通だと慣れることも怖い。
けど信長様の生きるこの乱世を見ろと言った気持ちを無駄にしたくない。こうなる事は百も承知で、でも包み隠さず乱世の厳しさも知っておけと言う信長様の真っ直ぐな気持ちからは逃げてはだめだ。
「…ならば早くしろ」
信長様からため息が漏れ、握り止められた手が離れた。
「しっかり擦らんと拭い取れんぞ」
「わ、分かってます!」
(うーー、オレ様め!しおらしいと思った途端これだ)
「あと少しで取れますから…」
「ん、」
でも、この命令口調も以前は苦手だったけど、今のこれは信長様なりに気を遣ってそうしてくれてるみたいな気がする。
「戦…早く終わるといいですね」
「謙信の出方次第だな」
上杉軍は手強く戦は膠着状態となり、両者睨み合いのまま二日が過ぎた。