第12章 戦
「伽耶 、貴様は救護の天幕に控えていろ」
軍議終了後、どうすればいいのか分からずぼーっとしていた私に信長様が指示を出した。
「信長様は?」
「俺は先陣を切る」
「え?信長様も戦いに行かれるんですか?」
大将は座って待つものじゃないの?
「向こうは謙信が前線で睨みを利かせているらしい。俺が撃って出ねば士気が下がる」
だから、死ぬか生きるかの戦いに行くって言うのにどうしてそんな笑って話せるの?
「…っ、無事で戻ってきて下さいね?」
こんな言葉しか私には言えないし思い浮かばない。
「当たり前だ」
そんな..カッコよく言い切られてもまだ不安で…
「怪我とか、絶対しないで……!」
何か言葉を言わないと不安で、そんな私の言葉を遮る様に唇を掠め取られた。
「………っ!」
油断した。って言うか、油断したらしていいってのは有りなの!?
「ひ、人が心配してるのに…」
「勝利祈願は必要であろう?案ずるな。俺は必ず勝つ」
「っ………」
相手のが一枚上手だ。何をされてもポジティブに変換してくるから怒れない。
それに、恐れを知らない不敵な笑みはとても魅力的で…、不安なのになぜか心を強く揺さぶられた。
信長様達が出陣された後、私は救護の天幕へと向かった。
「あ、ひぐらしの鳴き声…」
どこからかひぐらしの鳴き声。
この声を聞くと言うことは、夏も終わりに近いと言うこと…。
来た時は六月で梅雨の時期だったのに、いつの間にか夏も終わりに近づいて、まだまだ残暑厳しいけど、季節は確実に移り行く。
私がここにいられる日はもう一月もない。
あんなにも帰りたかったのに今は残りの時間がとても大切に思える。
「それにしても、信長様に指摘されなかったら次に佐助君に会ってもまた肝心な事聞かずに終わりそうだったな」
次に会うのが帰る時なのか、打ち合わせに訪れてくれるのかは分からないけど……
「と言うか、もし今日とかに安土に来てたらどうしよう…?」
今日じゃなくても、この10日の間に佐助君が安土を訪れてたら?
私に何かがあったと心配させてしまうかも…
それとも、帰る気がなくなったと思って諦めて一人未来に帰ってしまうかもしれない…?