第12章 戦
「さぁな、だが身内の裏切りなど珍しい事ではない。現に俺が初めて手に掛けたのも身内の放った刺客だ」
「………っ、」
出会ってからした会話の中でこれが一番心を抉った。
「貴様がそんな顔をする必要はない」
私の頭に手をぽんと置いて、信長様は少し寂しそうに笑う。
深い闇が信長様の目の奥に見て取れる。
こんな辛い事を淡々と話せるようになるまでに、どれだけの心を殺してきたんだろう…?
冷たい目にならざるを得なかった理由が少しだけ分かった気がした。
「話が逸れたな。今は貴様の話だ」
ふっと笑って私の頬をプニっと摘んだ。
「…あ、えっと…、」
もう少し信長様の過去に触れさせて欲しかったけど、そんな資格は自分にはない。欲を頭から振り払い話を戻した。
「えっと…佐助君は間者ではないと思います」
うん、忍者ではあるけど間者ではない。
「それに私を騙したって得する事が彼にあるとは思えませんから。きっとその日が来たら迎えに来てくれます」
電話もなければメールもスマホも何もない。
文書で伝えようにも住んでるところも住所も分からない。(住所というのは存在するのか?)
この時代は、私の時代からすればとても不自由だ。
だからこそ不安になるけど、信じたい。
「そうか。貴様が言うのならばそうなのだろう。だがその時が来たら俺に其奴を会わせよ。貴様が戻る戻らんに関わらず奴は来ると言う事だろうからな」
納得はしてくれたみたいだけど、それは交換条件付き。
「え〜!斬りかかったりしないで下さいよ?」
帰る前に一悶着とか冗談じゃない。
「約束はできん」
「ええっ!」
「前を向け、落ちても知らんぞ」
「誰のせいだと思ってるんですか」
結局最後はいつものやり取り…
でもとてもドキリとさせられた。
信長様の過去の話もこの乱世の無情さも、そして佐助君の事も…
佐助君はきっと迎えに来てくれる。
彼は確かに忍者ではあるけど、信長様の言うような事はない。そんな事はない…と思いつつも、信長様の指摘も的を得ていて、少しだけ胸の引っかかりは残ったまま私たちは目的地へと着いてしまった。