第12章 戦
広間に行くと皆が座って信長様を待っていて、信長様はその中を歩き上座へと座った。
朝餉を食べる時の柔らかな雰囲気はどこにもない。
信長様に少し遅れて部屋に入った私は、末席に正座してみんなを見た。
やっぱり表情が全然違う。
信長様の時同様に、本能寺の変の時に見た顔になってる。
「信長様、俺に行かせてくれ」
まだ誰も何も言っていない中、政宗が名乗りを挙げる。
(は?)
信じられない。死ぬかもしれない戦いに志願するなんて…しかも彼の顔には恐れなどはなく寧ろ楽しそうに胸を躍らしているみたいに見える。
「政宗さん、今回は俺も引けません。信長様、俺に行かせてください」
(家康まで…?)
普段素気ない家康の顔まで野心に駆られているのが見て取れる。
戦は恐怖の対象ではないの…?そんな疑問すら浮かびそうなほどに彼らはまるでゲーム感覚だ。
「お前らなぁ、まずは話を聞け、それからだ」
秀吉さんが二人を目で静止する。
そんな秀吉さんの顔も、出会った頃のように険しい。
「軍議を始める。光秀」
「はっ!」
信長様の言葉で皆背筋を伸ばし、光秀さんに顔を向ける。
「上杉との国境周辺に放ってあった斥候から先ほど連絡が入り、織田領内の支城が上杉の攻撃に遭い、現在城に立て篭もり応戦中との事。援軍の要請がありました」
「上杉側は、誰が軍を率いておる?」
信長様は冷静に質問をする。
「恐らくは越後の龍、上杉謙信自らが率いているものと…」
光秀さんも淡々と答える。
上杉謙信…名前は聞いた事がある。でも、合戦の名前とか、どこの武将かとかは分からないな…
「あの戦狂いが…また暇を持て余し仕掛けて来たか」
ふんっと信長様は鼻を鳴らした。
戦狂い?暇を持て余したから戦をする?あまりの猟奇的な言葉に耳を疑うが、そう思っているのはどうやら私だけみたいだ。
「あの支城は取られると後々厄介だ。それに謙信が籠城を長々と眺めているとも思えん。攻め込まれる前に奴らを撃退する」
「はっ!」
「政宗、家康っ!」
信長様が二人の名を呼ぶ。
「「はっ!」」
「戦狂いに付き合うのももう飽きた。どちらでも良い、奴の首を挙げよ!」
「「ははっ!」」
意気揚々たる声で頭を下げる二人は、戦闘モードに入っている事が分かる。