第11章 晩酌③ 〜祭りの後編〜
祭り当日、伽耶は予想通り浴衣を返しに天主へとやって来た。
そんな訴えを鼻から聞く気のない俺は奴の押しの弱さに漬け込んで浴衣へと着替えさせた。
「お待たせしました」
「……っ」
浴衣に着替えた。ただそれだけのはずなのに奴の周りだけ陽が差したように輝いて見えた。
「信長様?」
「いや、何でもない」
貴様に見惚れたなど言えるはずもなく、俺は伽耶の胸に差し込まれた懐剣に手を伸ばし取った。
「え?」
「今日は俺がいる。懐剣は持たずとも良い」
「あ、はい。ありがとうございます」
ホッとした様にはにかんだ伽耶をやはり綺麗だと思った。
城下に出た伽耶は自然と寺の方へ歩き出す。
「どこへ行くつもりだ?」
ここは知らぬフリをした方がいいと思い俺は行き先を尋ねた。
「…お寺です」
「寺?」
「はい。先日信長様にお伝えしたお寺です。実はあの時から信長様に内緒でお寺のお手伝いをさせてもらっていて…」
「…そうか」
「はい」
「………」
「………」
会話の内容よりも、伽耶から目が離せない。
露店で売っていた、さして高価な浴衣でもなかったが、懐剣同様に俺が贈った物を身につけていると言うことがこんなにも胸の辺りを騒つかせるとは知らなかった。
「その浴衣、貴様に似合っておるな」
気持ちを抑えきれずついに言葉が口からこぼれた。
「え?」
伽耶は驚いて振り返る。
「貴様に似合ってると言ったんだ。貴様はまことその花のようだな」
いつの間にか沢山の蕾をつけ大輪の花を咲かし人を魅了する。その朝顔の様に…
「っ……ありがとうございます」
頬を赤く染め俯く姿もまた愛らしく、顔は自然と緩んだ。
「浴衣、ありがとうございました。信長様も今日は浴衣姿でとても素敵ですね」
気を抜いていると、突然の褒め言葉が飛んで来た。