第11章 晩酌③ 〜祭りの後編〜
「伽耶さんが子どもたちに言った言葉です」
「伽耶が?」
「はい。伽耶さんが子どもたちに、安土にはあの子たちと同じ様に苦しんでいる人がたくさんいて、順番に信長様が助けている最中だから、みんなの番が来るまで一緒に待とうと子どもたちに話したのです」
意味を理解できない俺に僧侶が捕捉説明をした。
「伽耶がそんなことを…」
(あの時、俺は伽耶の気持ちに応えるよりも己の政を優先させたと言うのに、奴は俺のためにこれをやっていると言うのか…?)
「伽耶さんと私は、信長様が思われている様な関係ではありません。彼女はいつだって信長様とこの安土の為に自分に何ができるのかしか考えてませんから。私の付け入る隙なんてこれっぽっちもありません」
「……っ」
付け入る気だったのかとその言葉にムカつきを覚えたものの、それよりも伽耶のこの行動が俺のためだと言うことに気持ちを持っていかれた。
「でもそうですか…。伽耶さんはやはり姫君でしたか…」
僧侶は何故か落胆した様子でそう言った。
「奴は、伽耶は何者だと貴様に言ったのだ?」
伽耶が織田家縁の姫と言う立場を受け入れていない事は知っている。
「伽耶さんは、自分は城の針子だと…。ですが胸の懐剣に織田様の家紋がありましたのでもしかしたらそうかなと。ご本人はそんなことにも気づいていないようでしたので、私も見て見ぬふりをしておりましたが…」
「そうか」
伽耶に懐剣を持たせたのはもちろん身を守る為であったが、それ以外にも奴は俺のものだと見てすぐ分かる様に織田の家紋を付けた。
「貴様、本当に伽耶に手を出してはおらんだろうな?」
「それは、信長様が一番ご存じかと」
「……っ、」
僧侶に諭されるとは俺もまだまだと言うことか…
奴の言葉は癪に触るが、俺のためにしたと言う伽耶の努力には報いてやりたくなった。
「教えろ、伽耶と貴様はここで何をしようとしておる?」
祭りのことを僧侶から聞き出した俺は、祭りの手配と子どもたちの身元引き受けの話を進める様秀吉たちに手配させ、城へ戻る途中で伽耶の欲しがっていたと言う反物を手に入れ針子たちに急いで仕上げさせ祭り当日を迎えた。