第11章 晩酌③ 〜祭りの後編〜
寺へ行くと、長身の美丈夫な僧侶が俺たちを出迎えまたもや胸がざわついた。
「貴様がこの寺の住職か?」
今すぐにでも首を刎ねてやりたい衝動に駆られながら、俺は僧侶を睨んで問いかけた。
「はい。失礼ですが貴方様は?」
役者の如き面で僧侶は逆に俺に質問をした。
「俺は織田信長だ」
「織田信長様っ!ご城主様でしたかっ!?」
本当に俺を知らなかったのか?男は驚きと共に頭を深く下げた。
「そうだ。貴様、俺の女に手を出すとはどう言う事か分かっておるのだろうな…?」
手は自然と刀へと添えられる。
「信長様の女っ!?一体何のことでございますかっ!?」
(此奴、しらを切るつもりか?益々もって腹立たしい!)
「伽耶のこと、知らぬとは言わせぬ」
「伽耶さんっ!?伽耶さんが信長様のっ!?」
「言い訳も経もあの世で唱えよ」
武士の情け、一思いに殺してやると刀を抜きかけた時、
「伽耶お姉ちゃんが戻って来たの?」
「今伽耶って聞こえたよ」
「伽耶お姉ちゃん?」
「お姉ちゃん?」
寺のあちらこちらから、伽耶の名前を言いながら子どもたちがワラワラと出てきた。
「あれ?住職様、伽耶お姉ちゃんは?」
伽耶を探しておるのか?子どもたちはキョロキョロと辺りを見回す。
「伽耶さんはまだ買い物から戻ってきてないよ。さっき行ったばかりだろう?」
「でも今伽耶って聞こえたよ?」
「それは、こちらの織田様と伽耶さんの話をしていたからだよ」
「織田様?織田様って、織田信長様っ!」
「?」
(どう言う事だ?)
俺の名前を聞いて、子どもたちは恐れるどころか嬉しそうな顔をした。
「そうだよ。この安土のご城主様だ。お前たち挨拶しなさい」
「こんにちは」
「信長様こんにちは」
「僕たち、信長様の事をずっと待ってたんだよ」
「俺を…待ってただと?」
「うん、お姉ちゃんが、きっと信長様が僕たちを助けてくれるから、時間はかかるけど一緒に待とうねって言ってくれたんだ。約束通り来てくれたんでしょ?」
「約束…?」
(一体何の話だ?)