第11章 晩酌③ 〜祭りの後編〜
「伽耶はどうした?」
膳も全て運び込まれ、食すばかりとなった広間に伽耶がいない。
「伽耶なら厨で朝餉を済ませて急いでどこかへ出掛けていきましたよ」
政宗が俺の問いに答えた。
「は?聞いておらんぞ」
ここで朝餉を取る事は決して強要ではないが、何故か面白くない。
「あいつ…好きな男でも出来たんじゃないですか?」
政宗の言葉に耳を疑った。
「何?」
「ここ最近、厨の余り物で何かを作っちゃ誰かに持って行ってるようで、聞いても答えを濁すから男だと思ったんですが…」
「やはりそうか。…あいつ、その男に貢いでる可能性があるな…」
政宗の言葉に、今度は秀吉が反応する。
「貢ぐだと?秀吉、詳しく話せ」
「実は…」
秀吉の話では、伽耶は手にしたばかりの金を全て使い、好きな反物を買えないほど金に困っていたと言う。
ムカムカと感じたことのない気持ちが込み上かってくる。
「あいつは真っ直ぐだからな、悪い男とは知らず簡単に騙され貢いじまったんだろうな」
秀吉の言葉で広間は静まり返る。
この、抜刀して全てを薙ぎ倒してしまいたい程のムカつきは一体なんだ!?
「その男とはどこのどいつだ」
「俺、ある噂を耳にしました…」
家康が静かに手を上げた。
武将たちの視線が一斉に家康に向けられる。
「家康、早く言えっ!」
「俺が聞いたのは、毎日のように町外れの寺で僧侶と会っている伽耶の姿が目撃されているって事です」
「僧侶!あいつ、寺の僧とそんな仲にっ?」
秀吉はそう言って叫んだが、
「寺の僧侶なら、以前伽耶から話を聞いた寺の者かもしれん。それならば色恋云々ではないだろう?」
(奴の事だ、俺の助けがないからと言って見捨てられなかったのだろう)
そうと分かれば何の問題もない。
込み上げていた怒りが急速に鎮まり始めた時、
「御館様、そう安心するのは早いかもしれません」
光秀の一言で、鎮まり始めた怒りに”待った”がかけられた。