第11章 晩酌③ 〜祭りの後編〜
「失礼します」
奴の顔には、なぜ俺が奴だと分かったのかと不思議に思っているとかいてある。
「なんで分かったのかって顔だな」
呆けた面に笑いが込み上げる。
「…うっ、その通りです。なんで私って分かったんですか?」
久しぶりの奴の戸惑い顔、今から言う言葉で奴がまた困ると分かっているが、俺は思ったままを口にする。
「足音だけで貴様と分かる」
「え?」
やはり、奴は分かりやすく困惑した。
「そんなに大きな音を立てて歩くのはこの城中で貴様しかおらん」
奴の警戒心を解く為にも俺はあえてこの言葉を言う。
「どうせ私は歩く騒音ですよ」
「言い得て妙だな。分かっておるならいい」
「もう、そこはそんな事はないって言うところですよっ!」
「俺は嘘はつかん」
「そうですか。ご立派ですね!」
やっと、いつもの奴とのやりとりへと戻る。
これ程に会話に気を使うなど、奴以外ではあり得ないが楽しんでいる俺がいることも確かだ。
「どうした?貴様から天主に来るなど珍しい」
あの日以来、貴様が俺を避けていたことは分かっていた。
「あの、お願いがあって…」
伽耶は城下で見た寺の事を俺に伝えて来た。
「……なるほど」
内容云々より、ふらふらと城下を歩き見知らぬ寺の中へ入って行った危機感のなさに驚いたが、奴の顔は至って真剣で、俺もそれに対しては真剣に答えた。
結果は否。
奴にも説明した通り、訴えは重要度が同じならばその手が回るのを待つ他ない。
「分かりました。聞いて頂きありがとうございます。忙しい時にすみませんでした」
伽耶は納得はしているようであったが、分かりやすく落胆した顔を見せた。
「伽耶」
何かを言ってやりたかったが言葉が浮かばない。
女を引き止めた事など伽耶以外になく、何を言えばいいかが分からないからだ。
「仕事に戻ります。失礼しました」
結局俺は伽耶を引き止めることはできず、奴は頭を下げ部屋を出て行った。
「なかなか縮まらぬな…」
伽耶との関係性に何も進展がないまま数日が過ぎた頃…