第10章 夏祭り
「信長様って、本当に凄い人ですね」
正直な気持ちが口から出た。
「?貴様…今日はやけに俺を褒めるな。これは、明日はまこと嵐やもしれんな」
片眉を上げ訝しげな顔を見せる信長様が可愛くて笑いが込み上げる。
「ふふっ、今日はたくさん信長様の事を褒めたい気分なんです。だって、この豊かな町を作ったってだけでも凄いのに、お寺の子ども達をあっという間に幸せにしてあんな素敵な笑顔を引き出すなんて、凄すぎです。本当に感謝してるんです」
本当に、今日はどれだけ感謝してもしきれない。
ピューーーーと、花火が夜空に打ち上げられ、パーンと大きく花開いた。
「わぁっ!この花火は大きいですね!お祭りと言うご褒美を頂いたばかりなのにこんな花火まで見れて、今日は信長様からたくさんご褒美を頂けて幸せです」
努力は報われるなんて言ったら大袈裟だけど、今日は本当にそんな最高の気分だ。
お酒は飲んでないけど、ふわふわと楽しく嬉しい気分でいると…、
「俺も、褒美が欲しくなった」
「え?」
言葉の意味を理解する前に信長様の長い指が私の顎を掴んで引き寄せた。
見えていたはずの夜空は信長様の顔に遮られ、
「……?」
訳が分からずにいると、何かが私の唇に触れた。
「………」
離れていく信長様の顔に、キスをされたのだと気づいた。
「……!」
驚いてただ信長様を見つめ続けていると、
「褒美にはまだ足りんな。もう少し寄越せ」
熱のこもった目で私を見つめ、唇を再び重ねた。
「……っ、」
ドクドクドク…と、心臓の音が花火よりも大きく耳に届く。
食む様に重ねられた唇は、何度か私の唇を啄んで最後にペロっと唇を舐めて離れて行った。
「褒美は確かにもらった」
するりと顎から離れていく長い指を綺麗だと思う余裕はもちろんない。
「……っ、私、良いって言いました?」
顔はもう熱いを通り越して沸騰してる。
「ふっ、隙を見せた貴様が悪い」
不敵に笑った信長様は、驚いて落としてしまった私のおにぎりを拾い上げ、
「新しいのをもらって来てやる」
そう言って、みんなのいる夜店の方へと歩いて行ってしまった。