第10章 夏祭り
縁側に片腕をついて崩れ落ちそうな体を支える。
「………っ、ヤバい心臓飛び出そう」
もういつ口から心臓が飛び出てもおかしくない程に心臓がバクバク言ってる。
最初は触れるだけのキスだった?
その次も啄むだけの軽いキス。
それなのに、こんなにも胸が震えて止まらない。
「っ、…もう誤魔化せないよ」
カエル化現象とか、上司とか、元カレとか、いろんな理由を出してこの気持ちから逃げて来たのに、あのキスが知りたくなかった答えを簡単に引き出してしまった。
遠くに、戻って来る信長様の姿。
目を凝らせば、おにぎりを両手に持ってる。
「一つでいいのに…私がまるで大食らいみたいじゃない…」
本当はそんなこと思ってない。私がお腹を空かせてるだろうと、優しさで持って来てくれていることも分かってる。でも今は可愛げのない言葉でも言っていないと頭がいろんな感情で爆発しそうで…
「ほら、腹が騒ぎ出す前に食え」
おにぎりを二つ私に渡すと、信長様は元の場所に再び腰を下ろした。
「ありがとうございます。いただきます」
(凄い普通に接してくるけど、動揺しているのは私だけ?)
涼しげな顔でお茶を飲む信長様には何の動揺も感じれない。
「ゆっくり食べろ。喉を詰まらせる」
「わ、分かってます」
(食べなくても喉は詰まりそうだよ)
花火はまだ夜空を彩り続ける。
二人で縁側に腰掛け花火を見ながら食べたおにぎりは全く味がしなくて、触れ合った唇がずっと熱く熱を持ったまま…
ワームホールの出現まであとひと月、それまではと必死に蓋をして来た自分の気持ちは思わぬ形で蓋を取られ、誤魔化すことは困難な状況となってしまった。