第10章 夏祭り
「信長様お疲れ様です」
賑わいから少し離れた寺の縁側で信長様は一人座っていた。
「伽耶か」
「おにぎりをお待ちしました。信長様ここに来てから何も食べてませんよね?」
来て早々に子どもたちに誘われて全力で今まで遊んでくれた信長様。
「もうそんな時間か?奴らと遊んでいると時間はあっという間だな」
「子どもって常に全力ですからね」
「そうだな」
本当に本気で遊んでくれたのだと、少し乱れた髪をかきあげる信長様の姿からそれが伝わって来て嬉しい。
「どうぞ、ここに置きますね?」
お盆に乗せたまま信長様の横におにぎりとお茶を置いた。
「貴様はもう食べたのか?」
「いえ、これから食べようと」
「ならばここで食べよ。貴様こそ何も食べておらんだろう?またその腹が豪快に騒ぐぞ?」
「もう、その一言は余計です」
「嘘はついておらん。腹が減れば腹は鳴る。それは当たり前だが、貴様ほど豪快な腹の虫を飼っておる奴は他に知らん」
ククッと、本当に可笑しそうに笑うから怒るに怒れない。
「うーー、悔しいけど否定できません。でも、それだけ私は恵まれてたって事なんですよね?」
「うるさい腹の虫が恵まれているとはまた、おめでたい考えだな」
おにぎりを口に運びながら、信長様は私に笑う。
「これは冗談ではなくて本当なんです」
本当に、このお寺の子どもたちと触れ合う中で気づかされたことだ。
「ここにいる子どもたちは、空腹にも気がつかないほどにお腹が空っぽなんです。お腹は、食べ物を常に一定間隔で入れるからこそ機能して鳴るんです。だから彼らの様に何日も食べることができないと、お腹が鳴る事もない。だけど生存本能として食は欲する。まだ子どもなのに、お腹いっぱい食べたことがないなんてとても可哀想で…」
私のお腹は本当に学生の頃からよく鳴って、意識すればするほど余計に鳴ってしまう悩みの種で、でもそれが幸せの音だと彼らが気づかせてくれた。