第10章 夏祭り
子どもたちとのお祭りは、予想とは違い盛大で賑やかなお祭りとなり、笑い声は陽が沈んだ後も絶えることはなかった。
「子どもたち、楽しそうですね」
夕餉の代わりにおにぎりを握っていると、良心さんがやって来た。
「はい、本当に。よく食べてよく遊んでるから、このおにぎりがお腹に入るかは分かりませんけど、ふふっ…」
お腹いっぱい食べたことのない彼らに、そんな気持ちを分かってもらえる日が来たのならそれはとても嬉しい。
「あれだけ動けばきっとペロリと腹に収まりますよ。信長様や他の武将の方々にも何とお礼を言えばいいか…」
子どもたちと夢中で遊ぶ信長様たちを見ながらそう言う良心さんとは、今日のこの祭りになるまでの経緯をお互いに報告し合った。
私が思った通り、いきなり信長様率いる武将達がこの寺を訪ねて来た時は、皆の顔があまりにも怖くて”死”が頭をよぎったと言う。
ただそこから誤解を解くには子どもたちの証言もあり時間はかからず、信長様の鶴の一声で、あっという間にここがお祭り会場へと変貌を遂げたらしい。
「その時の子どもたちの顔、伽耶さんにもお見せしたかったなぁ」
その時の様子を思い浮かべているのか、良心さんは目を細めて遠くを見つめた。
「ふふっ、でも何となく想像はつきます。今もきっと同じ目をしてるはずですから」
キラキラと、それはそれは期待と喜びに満ちた今の様な目を彼らはしていたに違いない。
「子どもたちの事も、里親や良き奉公先を、彼らの年や意志に応じて見つけて頂けると約束をして下さいました。信長様は本当に立派なご城主様です」
「良心さん」
素直にその言葉が嬉しかった。
だってその言葉こそ、私が聞きたかった言葉だから。
信長様の事を理解してくれる人が一人増えた。そして子どもたちもきっと、今日の信長様や武将たちとの時間を忘れないだろう。
日が沈み屋台が夜店へと変わる頃、私はおにぎりをみんなに配り、子どもたちの遊びも終了となった。