第10章 夏祭り
「そこにいる信長様だよ」
「え?」
「そうだよ。信長様が今日はお寺をお祭りに変えてくれたんだよ」
「好きなだけお祭りを楽しんでいいって」
「ねぇ、ねぇ、次は団子食べよー」
「うん食べよー」
「じゃあお姉ちゃんまたねー」
「う、うん。後で遊ぼうね」
子どもたちは無邪気に屋台の方へと駆けて行った。
やっぱり信長様が何かしてくれたんだと言う確信と共に、疑問も湧き上がる。
「どうして?」
そう言って隣に立つ信長様を見れば、
「今日は、あの者たちと浴衣が汚れるまで遊ぶのであろう?」
ニヤリと、してやったりな顔で信長様は口角を上げた。
「……っ、やっぱり、気付いてたんですね?」
「何のことだ?」
「私が、勝手にお寺のお手伝いをしてることをです」
それなのに怒るどころかこんなサプライズをしてくれるなんて…
「いや、俺が耳にしたのは、貴様が寺の坊主に騙され懸想し、金品を巻き上げられた挙句、大人の遊具を作って肉欲に溺れていると言うことだけだ」(←話が盛られている)
「なっ!なんですかっ、その話はっ!?」
信長様は、昨日の朝餉での武将たちとの会話の内容を教えてくれた。
「な、なんて行動の全てが裏目に出た噂を…」
(みんな戦のしすぎじゃないの?って言うか武将のくせに情報読み違えすぎでしょ!)
「でも…その流れからどうしてこんなサプライズに!?」
「サプライズ?」
「あ、良い意味で人を驚かせるってことです。私が、色恋沙汰にって誤解からどうしてこんな素敵なことになったのかなって……」
「無論、あのまま今の状況になったわけではない。寺に直接出向いて住職を問い詰めた」
「ええっ!良心さんの事、問い詰めたんですかっ!?」
(良心さん、生きた心地しなかっただろうな)
「当たり前だ。蛙憑だ何だと言って俺を避けておきながら、訳の分からん僧侶にいきなり持っていかれるなど、我慢ならん案件だからな」
「……っ、」
(これは、やきもちを妬いてくれたって…解釈して良いのかな…?)
いきなり押し掛けてきた信長様に問い詰められた良心さんの事を思うと申し訳ないけど、心はかなり甘くくすぐられた。