第10章 夏祭り
階段で軽く息の上がった私は呼吸を整えながら境内を見渡す。
「………え?あれ?」
思わず目を見張った。
自分が思っていた…と言うか、いつも見ている風景と違っていたからだ。
「どうした?」
「あ、いえ…」
首を左右に動かして、見間違いではないかと再度確認をする。
「一体…どうなってるの?」
(目の前の景色は全てがおかしい…)
「何がどうなっておるのだ?」
「あの…お寺の境内がいつもと違っていて…」
そう、目の前にはとても立派な屋台と店が建ち並んでいる。
つまり、お寺の境内がお祭りの会場に変わってるのだ…!
私は確かに、今日は子どもたちとお祭り気分を味わうために、みんなで様々な遊具を作って準備をしたけど…、その予定の中に屋台は組み込まれてなどもちろんいなくて…
「本当にどうなってるの…?」
完全に狐につままれた気分だ。
(ハッ、まさか……!)
一つの考えが思い浮かび私は横に立つ信長様を見る。
よくよく考えれば、急に浴衣を贈ってくれたり、監視下に置いたりと、信長様の今日の行動はおかしい。それに、困窮してるお寺の境内がお祭り会場みたいになってるのにこんなに落ち着いてるなんて普通ある?
「こっ、こっ、こっ…..」
動揺して声がどもって言葉にならない。
「何だ、ニワトリにでも生まれ変わったか?」
「ちがっ!でもこれ…」
信長様が…と言いかけた時、
「お姉ちゃーん」
子どもたちが私に気付いてこっちに向かって来た。
頭にはお面を被り、飴を手にとても嬉しそう。
「みんな…」
「お姉ちゃんすごいよ!本物の祭りがやってきたよ」
「僕のお面見て、カッコいいでしょ!」
「この飴細工犬の形してるんだよー」
みんな興奮気味に思い思いの喜びを伝えてくれる。
「みんな…どうやってこれを買ったの?」
そんなお金がないから手作りで雰囲気を味わう予定だったのに…
「それがね、ここにある屋台ぜーんぶお金がいらないんだって」
「お金がいらない?無料ってこと?そんな事、誰が言ったの?」
悪い大人にでも騙されたんじゃないかと今度は不安になった。