第10章 夏祭り
着替え終わった私は、信長様と城を出てお寺へと向かった。
「どこへ行くつもりだ?」
お寺の事はきっとバレてしまったけど、今からそこに行くとは伝えていないので、その事を知らない信長様は当たり前の疑問を口にした。
「…お寺です」
「寺?」
「はい。先日信長様にお伝えしたお寺です。…実はあの時から信長様に内緒でお寺のお手伝いをさせてもらっていて…」
「…そうか」
「はい」
「………」
「………」
会話はここで途切れた。
どうして俺の言うことを聞かなかった?とか、貴様は阿呆か?とか、勝手なことをとか…
もっと色々なことを聞かれたり責められたりすると思ったから拍子抜けしてしまい、理由を説明することができなくなってしまった。
結局、何を話せばいいのか分からず無言のまま少し歩いた時、
「その浴衣、貴様に似合っておるな」
「え?」
「貴様に似合ってると言ったんだ。貴様はまことその花のようだな」
思いがけず、大きな褒め言葉が飛んできた。
「っ……ありがとうございます」
不意の褒め言葉で胸は大きく跳ねた。
(どうしよう…顔を直視できない。)
この人は、信長様はこんなにも優しい目をする人だったっけ?出会った頃の冷たい目をもう思い出せない程に、ここ最近の信長様の目は優しい気がする。
(…にしても、朝顔に似てる…かぁ)
きっと思ったことを口に出してくれたのだろうけど、私の頭の中には朝顔の花言葉が思い浮かんだ。
朝顔の花言葉は色ごとにさまざまな意味を持つけど、今思い出せるのは〔儚い恋〕や〔短い愛〕と言う言葉。
まるで今の自分の置かれている心の内を言い当てられたみたいにずしっと胸に響いた。
「浴衣、ありがとうございました。信長様も今日は浴衣姿でとても素敵ですね」
「いきなりどうした?貴様が俺を褒めるなど、明日は嵐にでもなりそうだな」
「もう、すぐそうやって茶化す、じゃあもし明日嵐になったら二度と褒めませんからね」
「明日が楽しみになったな」
にっと意地悪く、でも優しく笑う笑顔は私を心底安心させ、信長様といることを居心地良くさせる。
「で、でもさすがはお祭りですね。いつも以上に城下が賑わってますね」
「そうだな」
歩いている間にも、町並みはお祭り色が濃くなって行く。