第10章 夏祭り
せっかく贈ってくれた着物をどうすれば気分を害さず返す事ができるのか、一言一言に気をつけながら、着物を信長様の前に置いた。
(怒るかな?怒るよね?)
貴様、俺の行為を無碍にするとは…とか言われそうと思って身構えたけど、
「気に入っておるなら問題ない。今すぐに着替えよ。隣の部屋を使え」
今の話を聞いてました?と言いたくなるような言葉が返ってきた。
それになんだか今日は笑顔がいつもより優しい気がする。(気のせいかな?)
「そうじゃなくて、私これを着られない理由があって、その…理由は言えませんが、とにかくダメなんです。これはお返しします。ごめんなさいっ!」
さすがにこれは怒るだろうと思いながらも、今日は手作りした遊具で子どもたちと泥んこになるまで遊ぶと決めているから、やっぱりこんな素敵な浴衣を汚すことはできない。
「何を勘違いしておるかは知らんが、貴様に選択権はない。今より貴様は俺の監視下でのみ行動を許される。どこかへ行くつもりならばそれに着替えて俺も連れて行け。でなければこの部屋から出ることは叶わんと思え」
「はっ?どう言うことですか?」
(どうしていきなり監視なんて…)
状況は一変、急な締め付けに意味が分からず信長様を見つめても、紅い瞳は何も応えてくれない。
(もしかして…お寺の事に気付いた?)
順番を待てと言われていたのに勝手なことをしてと怒ってるのだろうか?
「その様に不安な顔をするな。悪いようにはしない。それにその浴衣は貴様に贈ったもの。突き返されても俺に使い道はない」
ふっと、いつもの信長様の余裕顔で言われたから、
「でも、汚してしまうかもしれませんよ?」
やっぱりこの浴衣が着たくなって…
「構わん、それは貴様の物だ。汚れようが破れようが好きに着ると良い」
オレ様な笑顔がやっと信長様から見る事ができて、
「分かりました。私も着たくなっちゃったので、これはありがたく頂戴します。でも本当に汚しても怒らないで下さいね?」
お寺の事がバレてしまったのならもう隠さず正直に話そう。それで気分を害したのなら、ちゃんと謝ろうと思った。
「二言はない。早く着替えて来い」
「はい」
隣の部屋をお借りして、私は頂いた浴衣に着替えた。