第10章 夏祭り
〜祭り当日〜
私は信長様を含む武将達が大きな勘違いをしているとも知らず、午前中に今日の仕事を済ませお寺へ行く準備をしていた。
「伽耶様宜しいですか?」
襖越しに女中さんの声。
「はい、どうぞ」
いつも見習わなくちゃと思うほど優雅な身のこなしで部屋へと入って来た女中さんは、たとう紙の包を私の前に置いた。
「?」
「信長様からです。これをお召しになって天主へ来るようにと」
「え?今からですか?」
今日はそんな時間はないのに、女中さんは「はい」と頷いて静かに部屋から出ていった。
「これを着て来いって…」
包みを開けて中を確認する。
「これ…!」
あの時の、秀吉さんに会った時の露店で見た朝顔デザインの反物で仕立てられた浴衣だった。
秀吉さんが何かを言ったに違いないけど、私に買って贈ってくれたってことなんだろうか?
「でも何で?」
思いがけない贈り物に頭は混乱した。
「でも今日は、と言うかこれはもらえないよ」
子どもたちとお寺の境内で、質素でもいいから手作りの祭りをこれから楽しむことになっているのに、自分だけ新調した浴衣で行くなんてできない。しかもコマ回しや竹馬や輪投げなど、着物が汚れる可能性がある。(現代ならジャージで行きたいほどだ)
「とりあえず信長様にお返ししよう」
紐を結んで着物を包み直し、私は信長様の元へと向かった。
「信長様、伽耶です」
「来たか。入れ」
「はい、失礼します」
やや緊張しながら部屋へと入る。
「あ……」
信長様にしては珍しく装いがカジュアルで思わず声が出た。
(信長様も浴衣?)
いつもの派手な金銀糸の衣装とは違い今日はとてもすっきりと、でもセンス良く着飾られている。
装いが違うとまた新たなイケメンな一面が見えるなんて、顔が良いって凄いな。
「渡した浴衣はどうした?着ておらんのか?」
信長様のイケメンっぷりに魅入っていると、信長様は私が着物を着ていないことに異論を唱えた。
「あ、はい。せっかく用意して頂いた着物ですが今日は予定があってこれを着るわけにはいかないので返却に来ました。…あ、でもこの浴衣可愛いと思ってたのですごく嬉しかったです。それに関しては本当にありがとうございました」