第2章 無人島か戦国時代か
信長様はそのまま上座から私の前に来るとしゃがみ込んで私の顎をクイッと掴み上げて視線を捉えた。
「………っ、」
間近で見るとその目力の凄さに思わず目を逸らしてしまう。
「ふっ、気に入った。伽耶 可愛がってやる」
「へっ?」
「表向きは織田家縁の姫として扱ってやる。この城で自由に過ごせば良い。そして時折俺を楽しませよ」
「っ、楽しませるって…」
(お笑いをしろとか…って意味じゃあないよね……?))
チラッと伺う様に視線を向ければニヤリと口角を上げて笑っている。
「無理無理無理っ!私そう言うスキルはありませんから、そっち方面はご希望には添えませんっ!」
(彼氏に浮気されるくらいのスキルですから…)
「おい、お前っ、信長様に対して失礼だぞ」
「で、でも…」
「貴様が俺の希望に添えるかどうかは俺が決める。話は終わりだ」
私の顎から手を離して立ち上がると信長様は広間から出ていき、それに続いて他の武将たちも次々と部屋から出ていった。
「た、助かった〜」
ふぅーーーーーっと、長いため息が出た。
「とりあえずは殺されなくてすんだ。(貞操の危機はあれど)」
「伽耶、荷物を持ってついてこい」
ホッとする暇もなく、秀吉さんが私の前にやって来た。
「はい……あのどこへ?」
「お前の部屋に案内する。ついでに城の中も案内してやるから覚えろよ」
「はい…秀吉さん。ありがとうございます」
「礼はいらない。俺はまだお前の事を認めていない。信長様に害を成すような事があれば容赦なく斬る」
「だから私は………っ、いえ、何でもありません。宜しくお願いします。秀吉さん」
反論の言葉は飲み込んだ。感情的になるのは得策じゃない。友達になるのだって時間はかかるのに、こんな状況で未来から来たなんて言ってすんなり信じてもらえるわけもない。
「ついて来い」
「はい」
大地との事も、いつも我慢ができなくて感情的になって喧嘩になった。あの時ああ言えば、こう言えてたらと何度思ったか分からない。素直になれていたら別れる事もなかったし、失恋旅行で京都に行く事もなかったし、きっとここに飛ばされる事もなかったのかもしれない。
厳しい言葉の割に丁寧に城中を案内してくれた秀吉さんは、今日から私が住むことになる部屋へ連れてきてくれて帰っていった。