第2章 無人島か戦国時代か
「信じてもらえるとは思ってませんが、私はこの時代の者ではありません。500年先の未来にいたはずなのに、気づいたらあの本能寺に立ってたんです」
「だから、つくならもっとマシな嘘を…」
「嘘じゃありませんっ!」
呆れ顔で言い出した家康さんの言葉を途中で遮った。
私は信長様の前にさらけ出された自分の荷物の前に行って、スマホを手に持った。
「これはスマートホンと言って、世界中の誰とでも、いつでも連絡を取り合う事のできる道具です。そしてこれはこのスマホを充電するための道具で、これは財布。私の時代のお金です。あとは…」
怖くて手が震える。会社でのプレゼンだと思おうとしても、このプレゼンは失敗したら斬られて殺されるかもしれないと思うと、目頭も熱く視界がぼやけてくる。
「っ……、信長様は確か、ここへ来れば私に褒美をくれると言いましたよね?」
ゴシゴシと涙がこぼれる前に拭き取って信長様を見上げた。
「お前、信長様に直接話しかけるなど無礼だぞっ!」
秀吉さんが刀に手をかけ私を睨んだ。
ぎゅっと恐怖で体が窄まる。
「秀吉よい。伽耶続けよ。何が望みだ。金でも装飾品でもなんでも言ってみよ」
秀吉さんを手で制した信長様は私をじっと見据える。こんな時だけど、この人の深くて冷たい紅い眼は吸い込まれそうなほど綺麗だ。
「私は、嘘は言ってません。だから、私の話を信じて下さい。それが私の望みです。お願いします。私もどうしてこうなったのか、どうしたら元の世界に戻れるのか、もういっぱいいっぱいなんです。お願いします。私を信じて下さい」
絶対に信じられなくても信じてもらうしかない。
シーーーーンと言う静寂音と、バクバクバクと自分の心音だけが耳に届く。気の遠くなるような時間…
「ふっ、よかろう。貴様の望み通り、貴様の話を信じてやる」
「ほっ、本当ですかっ!」
「これだけの武将を前に己の意思を貫いた貴様の度胸を褒めてやる。さすがはあの炎の中から俺を助け出した女だ」
(顔は…笑ってるから、とりあえずは助かった?)
「信長様、ですがっ!」
「秀吉、俺の決定に逆らうか?」
立ち上がった信長様は秀吉さんを目で制した。
「いえ、失礼しました」
秀吉さんはすぐに頭を下げて口を閉じた。