第10章 夏祭り
「害…?信長様の野望のために、戦のために苦しんでいる罪なき人たちを害だと言うのですか?」
「そうならん為の天下布武だ。戦のない泰平の世を作れば苦しむ者も減る。それを早期に実現させるためにも今は益にならんものに時を割いている暇はない」
「信長様…」
小利大損。
小さな利益を得て大損するような事はしない。信長様はそう言いたいのだろう。天下泰平の世を築く為には、上に立つ者として当たり前の判断だ。
「…っでも、それを待っている時間はあの子達にはありません」
「それでも待てとしか言えん。時はかかるが嘆願書が出された順に苦しむ民への救済は行っている。その内その寺にも手が回るだろう。こればかりは貴様の頼みでも聞くわけにはいかん」
「……そうですよね」
要するに、自分の考えが甘かったって事だ。今までなんでも信長様が受け入れてくれてたから聞いてくれるものだと調子に乗ってた。これを無理に押し通せば、次の順番を待つ人達が困ることになるんだ。
「分かりました。聞いて頂きありがとうございます。忙しい時にすみませんでした」
「伽耶」
「仕事に戻ります。失礼しました」
信長様は何か言いたそうにしてたけど、これ以上ここにいるのは気まずくて、私は頭を下げ急いで部屋を出た。
(しまった、喜ぶどころか困らせてしまった…)
秀吉さんに感謝されたばかりなのにこんな結果になってしまい、難しい顔をした信長様を思い出し、秀吉さんに心の中で謝った。
でも、信長様の目指すものを聞くことができた。
凡人の私には到底理解のできない、この日ノ本を変えると言う大きな目標。
信長様の目指すものはとてつもなく大きい。だからこそ苦渋の決断を躊躇なく下す。例えそれが非情だと言われても、信長様は強い意志で進んで行く。
「うん。決めた」
それなら私は、その信長様が益だと思えない小さなことを信長様の益になるように頑張ってみよう。
私がこれからしようとする事は、信長様にとって蟻の働き位なものかもしれない。でもきっと、信長様の天下布武への小さな、本当に小さな助けにはなるはず。
心に芽生えそうな小さな思いは信長様の益へと繋げるために使おう。
私のできる信長様への恩返しと思って…