第10章 夏祭り
「その手の訴えは日々この城に届く。全てに対応するには時間がかかる」
「どうしてですか?だってこの間の水害は文が届いた次の日にはみんなで助けに行ったのに…」
「あれは人命がかかっておったし急げば食い止められる被害がいくつかあったからだ」
「寺の子ども達だって、このままだと病気になったり餓死したりするかもしれません。今手を差し伸べれば助かる命です」
(こっちは良くてこっちはダメなんて理解出来ない)
「伽耶、これは政(まつりごと)だ。貴様の甘っちょろい考えを持ち出すな」
「……っ、」
確かにそうだけど…
「でも前は、水害の時は私の意見を聞いてくれたじゃないですか?」
「あれは貴様の意見に一理あると踏んだからだ。だが今回の件は違う。貴様が見たのはほんの一部で、助けを請うものは他にもごまんといる。だがいくら手を差し伸べても強い者は生き弱い者は滅びる。この日ノ本に生きる全ての者に明日の命は保証されてはおらん。これが乱世だ」
揺るぎない強い意志を持った目が、私の薄っぺらな考えを見透かすように睨み見る。
確かに信長様の言う通り、今日見たお寺の事は氷山の一角で、あんな所がたくさんあるのかもしれない。
「私は確かに考えも甘いし、感情のままに走りがちですけど、でも、見てしまったものを見なかったことにはできません。信長様は、目の前で人が死にそうなのを見過ごして通る事ができるんですか?」
「当たり前だ。己の益にならん事はせん。死するのもまたその者の運命だ」
「………っ」
ダメだ、考え方が違いすぎる。
「じゃあ信長様にとって益とは、何ですか?」
信長様の口から何度か聞いたことがある”益”と言う言葉。その意味を知りたい。
「天下布武を唱える上で必要なものだ。戦で勝利を収めこの国を一つにまとめ天下泰平の世を築く。そのために必要なものが俺にとっての”益”で、それ以外は”害”だ」