第10章 夏祭り
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お城に戻ってすぐに、私は信長様に話をしようと広間に直行した。
「秀吉さん、今日信長様は?」
広間にはいなかったから天主だろうけど…
「伽耶どうした。お前が信長様に用なんて珍しいな」
「うん。ちょっとお聞きしたい事があって…」
「信長様は天主におられる。今はお一人のはずだから行ってもいいぞ」
そう言って笑う秀吉さんに私は思い浮かんだ質問を投げてみた。
「あの、秀吉さん」
「なんだ?」
「信長様にお会いするのって、簡単な事じゃないよね…?」
(良心さんに言われて気がつくなんて間抜けな話だけど、信長様に会う事は私の日常になっていたから…)
「そうだな。信長様にお目通りを願っても叶わない者は沢山いる。何年も待ち続けている者もな」
「……ですよね」
「どうした急に?」
優しい瞳が私を覗き込んだ。
「いえ、ただ、本能寺のことがなければ私もこんな風に秀吉さん達と仲良くなる事はなかったんだって…この偶然に感謝したって言うか…」
(当たり前に受け止めてた自分を反省したって言うか…)
「感謝なら俺もしてる」
「え?」
「お前が来てから信長様は楽しそうだ。来たばかりの頃は厳しくお前に接したが、今ではお前の存在に救われてる」
「っ、秀吉さん…泣かすつもりですか?」
思わぬ言葉にジーーンと胸が熱くなった。
「本当のことだ。お前が自由に信長様に会えるのは、お前が信長様にとって特別な存在だからだ」
「っ……それは…」
その言葉に返す言葉を私は見つけられない。
「悪い、まだこれを言うのは早かったな。信長様に用事があるんだろ?早く行ってこい」
ぽんっと、肩を天主の方へと押された。
「はい。ありがとうございます」
全て見透かされているようで恥ずかしくて…、走って天主へ行こうとすると、
「廊下は走るなよ?階段も静かにな」
「は、はい」
しっかりと念を押された。