第10章 夏祭り
「…そうですか。でもきっと変わりませんよ。上に立つ者はいつだって己の欲のためのみに動く。泣くのはいつだって女子供などの弱者だ」
良心さんはすっかり諦めきっているし、不信を抱いているようだ。
「私の知る信長様や安土の武将達は困っている人を放っておく事ができる人達ではありません。今日戻って機会があればすぐに話をしてみますから。今日はこれだけしかありませんが、少しでも子ども達に何かを食べさせてあげてください」
私は自分のお金を袋ごと良心さんに渡した。
「!こんなにも、いただけません」
「いえ、もらって下さい。そのお金は私がお給金としてもらったお金ですが、実のところ私にはあまり使い道のないお金なんです」
「どう言う事ですか?」
その反応はもちろんだと思う。
「あとひと月ちょっとで私は安土を離れるので、そうするとこのお金を使うことはできなくなるんです」
「?」
「えっと、つまりは何かの役に立てて欲しくて、偶然でしたけど、今日ここで出会えたのは何かの縁だと思うので、受け取って欲しいんです」
ずっとこのお給金の使い道を考えてた。
お世話になった人たちにさよならギフトを買っても余ってしまうこのお金は、散財しまくって帰るか信長様にお返しするかの二択だったけど…きっと寄付をする事が最良の方法に思えた。
「そう言う事でしたら遠慮なく頂きます」
良心さんは頭を軽く下げ受け取ってくれた。
(よかった)
「私、そろそろ戻らないといけないので、今日は帰ります。また明日来ますね?」
「あまり無理はしないでください」
「はい」
子ども達が境内のあちらこちらから私の存在を伺うように見る中、私はお寺を後にしお城へと戻った。