第10章 夏祭り
「あ、ごめんなさい。私は…お城で針子として働いている者で、伽耶と申します。仕事帰りに偶然ここを通り掛かって…」
「そうでしたか。私はこの寺の住職で良心と言います。あなたは今、お城の針子とおっしゃいましたが…そうですか。お針子を…」
「?」
(お針子に何か問題があるのかな?)
良心さんはチラリと私を全身見て、納得のいかない声でそう返した。
「あの、私お城に戻ってこの事を伝えて力を貸してもらえるように頼んでみます」
(信長様は町のみんなが思っているような冷徹な方じゃない。頼めばきっとなんとかしてくれる)
「それには及びません。それにここはあなたのような方が来るところではありません。お帰り下さい」
てっきり賛同してくれると思っていたのに、良心さんからは意外な言葉が返ってきた。
「え?」
(あなたのようなって、お城の針子はダメって事…?それともお城の人間自体を信用できないって事なのかな…)
「子ども達の救済は既に何度も城に足を運んでは嘆願してきました。ですがいつも城の役人がその嘆願書を受け取るだけで何の返答もありません。つまりはそう言う事なのです」
苦しそうに言うご良心さんの言葉にきっと嘘はないのだろう。だけと、私の会社にもよくある上には話が行っていないだけの可能性だってある。
「私、お城に戻ってもう一度話してみます。きっと何かの手違いで信長様にその嘆願書が届いてないだけなのかもしれません」
「あなたは…針子なのに信長様にお会いできる立場のお方なのですか?」
「え?」
その言葉で、私は改めて自分がとても恵まれた位置にいるのだと気づかされる。この国の王様のような立場の信長様やその重臣達。良心さんが言うように、彼らは一般人がおいそれと会える立場の人たちではないんだ。
「えっと…会える機会が無いわけではないって意味です…」
本能寺で命を助けたから偶然彼らとは仲良くなれた。と本当のことを話すわけにはいかず、私は言葉を濁した。