第10章 夏祭り
「良心(りょうしん)様っ!」
「住職様っ!」
子供たちは声の主が誰だか分かると一目散で彼の元へ駆けて行った。
(住職様?)
思い描いているお寺の住職とは違い、すらっと背の高い端正な顔立ちの僧侶は、あまり私と歳が変わらないように思えた。
(住職様って、このお寺の責任者って事だよね…?)
「こら、押すな。皆の分はちゃんとある。小さな者から並べ」
住職様と呼ばれる男の言葉に従い子供たちはきれいな列を作って並ぶと、何かを受け取り嬉しそうに口へと運んだ。
ガツガツと、それは消化に良さそうな食べ方ではなくて、貪ると言う表現が申し訳ないけど近い感じで…
「驚きましたか?」
子供たちに食べ物を配り終えた僧侶は、唖然とする私に声をかけた。
「あ、あの…」
はい。と言うのは失礼に思えて言葉に詰まった。
「あの子たちは、身寄りのない子供達なんです」
「え?」
「戦や天災などで両親を亡くした子もいれば、この寺の境内に捨てられていた子、両親はいるがそこを逃げ出した子など様々で、皆帰る場所のない子達です」
「そんな…こんなに沢山の子ども達が…?それを住職様お一人で支えておられるのですか?」
(だからこんなにも寺が荒れて…?)
「仕方ありません。信長様は、戦をして領土を増やし町を豊かにはされましたが、一方で神仏にはさほど興味は無く、寺社仏閣にはあまり見向きもされません。取り残された女子供が集うのはいつの時代も寺と相場は決まっております。私は仏に使える身として、助けを乞う者を見捨てるわけにはいきません」
「…っ、信長様はきっと、この状況を見たら力を貸して下さいます。一度お城に願い出てみてはどうですか?」
(この間の水害だってすぐに助けに向かったもの。こんな状況を知って放っておけるはずがない)
「失礼ですが、あなた様は?」
なんだか信長様を否定された気がして熱くなりかけた私を不思議そうな顔で僧侶は尋ねた。