第9章 視察
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「ふっ、本当に眠ったか」
何が気に障ったのか、頑なに眠ることを拒んでいたくせに、急に寝ると言い出し俺の胸に遠慮がちに頬を寄せ目を閉じた伽耶の瞼は閉じた状態でもぴくぴくと動いていて必死に寝ようとしている様が先程まで見てとれた。
「貴様の言動は中々読めんな」
不躾にずかずかと人の心に入り込んでくる割に、こちらから行こうとすると途端に踵を返して逃げて行く。伽耶とはこのやり取りを繰り返している。
「これが貴様の言っていた、蛙の仕業というやつか?」
伽耶の恋路を邪魔するとかいう呪いの蛙…
そんなものはなから信じてはおらんが…
「貴様を落とすのは中々に骨が折れる」
眠る伽耶の頬に指を滑らせると、伽耶はその指に頬擦りをして口元を緩めた。
「……っ、寝ている時まで…この悪女め」
時折見せるこの無防備な仕草が伽耶の魅力であり危険な所だ。奴自身が無自覚なためにどこでも振り撒きこの間の呉服屋の倅のような事が起きる。
(だからこそ…俺のいない時は城内で大人しくさせようと思っていたのだが…)
「枷をつける事すら貴様にはできんようだな」
言うことの聞かないじゃじゃ馬を乗りこなすのも一興。
再び伽耶の頬を撫でると、
「うーーん、お腹すいた。ラーメン…」
おそらくは食べ物の名前であろう。
幸せそうな顔でムニャムニャと寝言を呟いた。
「まこと見ていて飽きんやつだな。だが、俺の前でこんなにも無防備に寝るとは、俺のことをまだ男として意識しておらんようだな…?」
押し倒せば目を潤ませ顔を赤くする癖に、こんなにも無防備に寝られるのは癪に触る。
「せっかくだ、意識させてやるか」
人の胸を借りて無防備に眠りながら空腹を訴える伽耶に、少し灸を据えてやることにした。