第9章 視察
「城の外に出るななんて、何も悪いことしてないのにどうしてか気になって、その理由を教えて下さい」
「貴様は目を離すと直ぐに襲われる。俺のいない間にまた襲われるかもしれんと思うと気が気じゃない」
「っ……」
(それが理由?)
つまり、心配でそう言ってくれたってこと?
てっきり、みんなが救助作業に向かってる時に城下で羽目を外すんじゃないぞとか、そう言う類だと思っていたから、不意打ちを食らって言葉に詰まった。
「……お、御言葉ですが、いつも襲われてるわけじゃありません。二回です」
「阿呆、短期間で二度もだ。しかも俺の城下で…」
「あれ以来襲われてないです。今は道も覚えましたし懐剣もちゃんと持ってます。そんなに心配して頂かなくても大丈夫です。子どもじゃないんですから」
お父さんか!って本当は突っ込んでこの甘くなりかけの空気感を壊したいけど、そんな雰囲気じゃないことぐらい私にだって分かる。
「子どもではないからこそだ。貴様をあまり他の者の目に触れさせたくない。常に俺の目の届く場所にいろ」
私を自身の胸に抱き寄せていた腕に力がこもり、髪に信長様の唇を感じた。
「……っ、」
(これは本当にどう言う意味?深い意味はない?何?ヤバい、聞くんじゃなかった…)
もうどう返答すれば良いのかが分からず戸惑うばかりで…
「や、やっぱり眠気には勝てないのでお言葉に甘えて寝させてもらいます」
この空気感から逃げる方法はただ一つ。
目をぎゅっとつぶって硬く逞しい胸をお借りして眠ること。
耳がちょうど心臓に近い位置にあり、硬い胸の奥からは、トクトクと規則正しい心臓の音が聞こえてきた。
(人の心拍数を最速に上げておきながらこんなに落ち着いたリズムでいられるなんて、やっぱり揶揄ってるだけなんだ……?)
この逞しい胸にギギギッと爪を立てて悔しさを紛らわせたら怒るかな?とか、こちょこちょと脇を不意打ちでくすぐったら笑うかな?それともキレるかな?とか、できもしないのにそんな信長様を困らせる方法を考えている間に、睡魔に徐々に意識をうばわれて、ドキドキも体の熱さも感じない眠りの世界へと落ちた。