第9章 視察
帰りは再び信長様の馬に乗せてもらい帰路へ。
グー、グー、グゥー…
「ククッ…」
「信長様…どうせなら大声で笑ってもらったほうが良いです」
帰路につきホッとした私のお腹は馬が揺れるたびにグーグーと鳴った。
「貴様も食えば良かったものを、遠慮などするからだ」
炊き出しの汁物とおにぎりを食べなかった事を信長様は指摘する。
「あれは村の人達と。救助作業に頑張った信長様達の為に作ったものでしたから、私の分は無くていいんです」
「そんなに腹を鳴らして言われてもなんの説得力もない」
「その内に止みますから、暫く笑ってて下さい」
(だって、みんなの役に立ちたかったから…頑張ったなって褒めて欲しくて、あの時は本当にお腹もすかなかったし、私はいらないと思ったんだもの)
「城までまだある。とりあえずこれを食ってその腹の虫を止めてやれ」
ゴソゴソと信長様は竹の皮包みを私に出して見せた。
「え、これ…」
「貴様が俺に渡した握り飯だ。これを食って鎮めてやれ」
「大丈夫です。それは信長様が食べて下さい。たくさん体力を使ったんですから…」
「俺は汁物の方を食べたからいい。貴様の腹の虫が騒ぐと思い持って来た。遠慮せず食べろ」
早く受け取れと言わんばかりにずいっと目の前に持ってこられた。
「でも…」
「体力を使ったのは貴様とて同じだ。今日一日頑張った貴様はこれを食べる資格がある。遠慮せず食べよ」
「信長様…」
欲しい言葉を簡単に言ってくれるから、私も素直に反応してしまう。
「じゃあ、半分こしませんか?」
包みを開いておにぎりを手に取った。
「俺は一口でいい」
言葉と同時に信長様はおにぎりを一口かじった。
「!」
「あとは貴様が食べよ」
「………っ」
先っぽをかじられ富士山のようになったおにぎりをジーッと見つめて固まってしまった。